第20話 決闘
今日はマリルと一緒に王城に行く日だ。
とりあえず『ドラゴンズレイヤー』の称号と『勲章』の授与を受ける日。
僕にとってはどうでも良い日だが、マリルにとっては全然違うらしい。
「そんなに緊張する事なの?」
なんでか、いつもと違ってカチンコチンだ。
「そりゃ緊張するわよ! 落ちこぼれと言われた私が、国王様に会うのよ…しかも直々に勲章が貰えるなんて、今でも夢みたい…これで実家のお父様たちもきっと認めてくれるわ」
黒トカゲレベルを討伐しただけで…こんな栄誉が貰えるなんて。
この国はかなり他の国より甘いのかな。
まぁ良いや…街を見て歩いても騎士を見ても、今の所マリルより強そうな人間は見たことが無い。
凄く、安全な国だな。
「セレス様、マリル様、お迎えに参りました」
「嘘っ!ユニコーンの馬車に八花の王家の紋章なんて…」
なんでそんなに驚くのかな?
あれがマリルが欲しいなら何時だって捕獲してくるのに…
「そんなに驚く事はございません、貴方はこの国にとって、王にとって重要な人物なのです。この位は当たり前です。さぁどうぞお乗りください。この馬車は王家の馬車の中でも最高の六輪の車の馬車、高位貴族ですら乗れない最高峰の物です。恐らく王族以外で乗るのはお二人が初めてなのです…さぁどうぞ」
まだ固まっている。
仕方がないな…
「さぁマリル、手を」
「うん」
僕が先に馬車に乗りマリルを引き上げた。
恐らく僕がしなければお付きの人がしたと思うけどね。
「凄いわ、この馬車、中にお茶のセットまであるわ」
「確かに、お菓子にお茶は良いものですね」
御者から声が掛けられた。
「はははっこれは内緒ですが、パレードの時にはもっと大きな馬車を王が作ると言ってらっしゃいました。それこそ遠くからでも見える位の大きな物らしいですよ」
「凄いわ」
「確かに凄いね」
そんな物に価値は感じない。
だが、マリルが喜んでいるから良いか。
◆◆◆
王城につき門を通り、まさに入ろうとした時に声を掛けてきた人物がいた。
「よう、マリル」
「久しぶりねマリル」
「アントニーお兄様にシャルお姉さま? もしかして二人もお祝いに…」
マリルの顔が綻んだ気がした。
良かったな…
「違うな…ドラゴンズレイヤー、マリル貴様に決闘を申し込む」
そういうと、この男はマリルに手袋を投げた。
「待ちたまえ、マリル殿はこれから受勲だ、そのめでたい場所で決闘騒ぎなど言語道断だ。護衛を任されている者として見逃せない」
「ほう…だが決闘は貴族としての当然の権利、それは国王とて阻めない筈だ」
マリルが悲しそうな顔になった。
『此奴は許せない』
「そうか、それならパートナーとして僕が受けよう」
「馬鹿か? 俺が手袋をぶつけたのはマリルだ、ゆえに相手はマリルだ」
「そうか」
まぁ良いや…心配だから様子を見たけど…全部アリ以下の存在だ。
『この城に居る人間全員』でもマリルなら十分倒せる。
心配しないで良いよな。
「お兄様、この決闘は…お父様やお母様も知っているのですか?」
「ああっ勿論だ」
このいけ好かない男の視線の先には中年の男と女がいる。
あれが多分、マリルの親だな。
◆◆◆
誰かが話に行ったのか貴族達がこの場に集まってきた。
後ろから王冠を被った数人がこちらに来た。
多分、王族だ。
「一体、何が起きたのだ、これから受勲だと言うのに」
「はっ、クリフ王、パルドール侯爵の息子と娘がマリル殿に決闘を申しこまれました」
「なんと、これから式典があると申すに、決闘騒ぎなど、パルドール侯爵、申し開きはあるか?」
「お恐れながら決闘の権利は貴族の権利、王族とて止める事は出来ませぬ、ましてマリルはもう貴族にあらず、故にこの決闘を受けぬという道理は通りません」
「なっ」
「だが、パルドール侯爵、これから受勲という時に縁を切った娘とはいえ、この騒ぎ、大人気ないのではないか? 更に今回の式に貴方達は招待していない筈だが」
「宰相殿、それが気に食わないからの決闘ですぞ」
「この国だけじゃない、他国からの来賓も居るのに…なんて事を..」
「貴族の権利を行使するまで」
ああっ不味いマリルが泣きそうな顔になっている。
『許せない』最悪、この場に居る人間全員、皆殺しにしてしまおうか?
「貴族の権利を持ち出されては仕方がない、この決闘を許すとしよう…それで時と場所は?」
「今、この場所…そして時は今でお願いする」
マリルは決闘をしたくないのだろうな。
だが、これじゃ、しない訳にいかないだろうな。
「あの、こんな場所で戦ったら、怪我人や物が壊れる可能性があるので止めませんか?」
「逃げるのか?」
「そうじゃない…正論を言っただけだ」
「平民の分際で、もし怪我人や物が壊れたなら、こちらが全部その費用を負担しようじゃないか」
「王様、これも付け加えて下さい」
「解った約束しよう…客人である二人に…申し訳ない」
これで一つは解決した。
◆◆◆
「マリル、マリル、しっかりして」
「…そんな、お兄様がお姉さまが…なんで、なんでなのよ…」
駄目だ、さっきからショックで頭が回ってない。
仕方がない…
「マリル、何か衝撃がきたら、ファイヤーボールと剣を振る事」
そう伝えて杖と剣を握らせた。
まぁ、今のマリルなら眠っていても攻撃を躱すから良いや。
当たっても多分『痛いじゃない』で済むだろうし。
「それじゃ..はじめ」
あの二人。何をする気だ。
「ふん、私は宮廷騎士団故に、宮廷騎士団36名で相手する!」
「私はアカデミーの誇る戦闘魔法メイジ18名で挑むわ」
「卑怯じゃないか?」
「ふん、貴族にのみ助太刀は許されるのだよ…ドラゴンスレイヤーならこれでも余裕だろ!」
まぁね…
「マリル、いい加減目を覚まして、ファイヤーボールに剣を振って!」
「…ぶつぶつ...家族して..あっごめんセレス『ファイヤーボール』「えー-いっ」
前と同じ10メートルはあるだろうファイヤーボールが飛んでいき、近くの物を消し炭にしながら王城に飛んで行った。
触れた者は炭のように焼けただれていく。
更に剣劇は風の刃となり周囲の者を真っ二つに切り裂いた。
相手だけではなく、王も貴族も来賓も上下に真っ二つか、炭みたいに焼けて死んでいる様に見える。
最早、目に入る範囲で生きているのは…僕とマリルだけだ。
まぁ、当たり前だ。
幾らマリルが弱いと言っても『マリルは僕側の人間だ』
アリが体を鍛え、最強のアリになっても、人間の赤ん坊が倒れただけで潰れて死ぬ。
人間とアリ、その位の差はある。
「あああっセレス、私、私…沢山の人を殺しちゃった」
「別に良いんじゃない? さぁ帰ろうか?」
「嫌、嫌いやぁぁぁぁぁー――っ」
仕方ないな…マリルの為だ。
『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』
「はい…全員生き返らせた…これで良い」
「…うん」
「この決闘はマリルの勝ちで良いんだよな?」
「間違いなくマリル殿の勝ちだ」
「そう、それなら良かった…あと壊した物の弁償はマリルのお兄さんがするんだよな」
「その通りだ、それは決闘前に約束した」
「それなら良かった」
「どうしたというのだ」
周りの貴族は真っ青な顔をして見ている。
特にパルドール侯爵家の人間は死んだような顔になっていた。
マリルも顔は青い。
「嘘だ…」
そりゃ顔も青くなるか…何せ王城が半分近く崩壊しているんだからな。
僕は走り出すとサーチの魔法を使った。
幸い、ほとんどの者が決闘騒ぎで外に居た為負傷者は8人しか居なかった。
めんどくさいので8人にも『パーフェクトヒール』を掛けた。
これで負傷者はいない筈だ。
流石の僕も城は直せない。
「そうそう、クリフ王に言っておく。パルドール侯爵は貴方の家臣だ。確かにマリルの元親かも知れないが縁は切れている。 その家臣がここまで無礼を働いた。この責任をどう感じる? 今日はマリルの精神も穏やかでないから帰る。場合によってはもう称号も勲章も要らない…この国から出ていく事も視野にいれて考える。不愉快だ」
「待ってくれ」
「待たない…謝罪なら後で来い」
「この国が嫌になったなら帝国に来ると良い…すぐに九柱騎士の団長に取り立て、欲しければ公爵にしてやるぞ…帝国は強い奴が好きだ...がはははっ」
「待ちなさい、此処から出ていくなら是非、聖教国へ『パーフェクトヒール』が使えるなら大司教の地位を用意しますぞ」
僕は泣いているマリルの顔をマントで隠すと『考えます』とだけ伝えてその場を後にした。
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