第17話 クリフ王とバルドール侯爵 

「バルドール侯爵、ちょっと良いか?」


王宮でクリフ王に声を掛けられた。


なぜ声を掛けられたのか解らない。

「はっ別に構いませんがどういったお話しでしょうか?」


「君の娘のお話だ」


「私の娘のお話ですか?」


シャルがまた何か活躍でもしたのか?


「そうだ…彼女は凄く素晴らしいな、特に最近の活躍は素晴らしい物だ」


「そうでしょう…シャルは私の自慢の娘でして…」


そうか、シャルが何か活躍したのか、王の目に止まるなど、流石は我が娘だ。


「シャル?…そんな凡人の研究者では無い…そうか言い方が悪かったようだ、余が言いたいのは、お前が捨てた娘だ」


「なっ、するとマリルの方ですか? あいつが一体何をしたというのですか?」


馬鹿なあのマリルがか?


「冥界竜バウワーをたった二人で討伐、S級冒険者にてドラゴンズレイヤーだ。バルドール侯爵、なんでマリル殿を家から追い出したのだね? お前が繋ぎとめていれば、最強の配下を余は持つことが出来た…もはや帝国など恐れるに足らない。この国が大きくなる一歩を踏み出せた」


「あの、出来損ないがですか?」


本当にマリルなのか?


「なぜ、お前は自分の娘を色眼鏡で見るのだ、全く、出来損ないと言うのなら、お前の他の二人の子供だ、アントニーは宮廷騎士だがせいぜいがオーガが狩れるかどうかだ、シャルという娘はアカデミーの成果も芳しくない」


「二人の事をなぜ王は知っているのですか?」


「ハァ~、マリル殿があそこ迄の実力なら、他の兄や姉も何かあるか調べるだろうが…マリル殿と違って二人とも只の凡人であった…本当に使えぬな…なぁ、今回国は、金貨4万枚(約400億)の素材分をマリル殿から買い受ける、だがもしマリル殿が余の家臣なら他の素材も国がもらい受ける事も出来たのだ…さらにマリル殿はこれから先も同じような素材を手に入れるかも知れぬよ」


「ま、マリルがそこ迄の逸材だったのですか?」


「今回は余の方から千年近く授けた事のない『ドラゴンズレイヤー』の称号と一番栄誉ある『八花勲章』を授ける事とした。なぁ勇者ですら手にできにくい栄誉を送るのだ…そこまでの存在がなぜ、家を追い出されるのだ…お前の目は節穴か?」


「そんな、マリルは私が知る限り、才は無く」


「大器晩成という言葉もある…大方マリル殿はそういうタイプだったのだろう…それも見抜けぬとは本当に情けない」


「にわかに信じられません」


「余は事実を言ったまでだ」



「クリフ王、何やら面白そうな話ですね」


「おおっマルスン宰相、いやなに件のマリル殿について話をしていたのだ」


「エターナルラバー『ジェノサイドクィーン』のマリル殿ですね」


「そうだ、この馬鹿が実の娘の事なのに何も知らぬのだ」


「パルドール侯爵も惜しい事をしましたな、冥界竜バウワーを2人で倒せるような女傑を家から追い出すなど愚の骨頂ですぞ」



ジェノサイドクィーン? あのバウワーを倒した?


あのマリルが…


「お前は叙勲の際は王宮に来なくて良い」


「なぜでございます」


「主役はマリル殿だ、気を悪くされては困る、そんな事も解らぬのか? 暫く余はお前の顔を見たくない、王宮にも用が無いなら来る必要は無い」


そう言われるとクリフ王は不愉快そうに歩いていかれた。


◆◆◆


「マルスン宰相、先ほどの話は本当でございますか?」


「残念でしたね。もし貴方の手元に居れば『王宮魔法師団長』もしくは『宮廷護衛騎士団長』どちらかは確実。貴殿の一族の悲願である公爵にも手が届きましたものを…」


「ならば、今からでも遅くは無い」


「マリル殿には手出し無用にして頂きたい、これはこの国の指針です」


「なぜですか? 私の娘です」


「良いですか? 娘などと思わないで頂きたい。マリル殿は…もはやこの国の最重要人物…王ですら気を遣う存在なのです。くれぐれも粗相のないように振舞ってください」


「そんな馬鹿な…」


「冗談ではないですぞ…冥界竜バウワーを倒した存在を敵に回したら…国ごと滅びます。最早この国で一番の力を持っているのは王ではない。エターナルラバーこそが最高権力なのです…忘れないで頂きたい」


マリルが…あの馬鹿が…最高権力。


一体、何が起きているのだ…駄目だ頭が回らない。


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