第16話 粗悪品ですよ

風邪が治ったので冒険者ギルドに行こうと思うのよ。


流石にセレス一人に寄生していられないわ。


お金がまだ、沢山あるとはいえ、自堕落に過ごすわけにはいかないわ。


「セレス、冒険者ギルドに行きましょう」


「そうですね、今のマリルは不老だし、基本的に余程の事が無いと死なないから、小物の狩りなら安心です」


「またセレスったら冗談ばかり…まぁ良いわ、行くわよ」


「はい」


◆◆◆


「あれが、エターナルラバー….」


「二人揃えば、魔王でも遊び半分で殺せるという、化け物パーティー…」


「やばいよ、俺、マリルを馬鹿にして酷いこと言っちゃったよ」


「俺なんか、押し倒そうとしたんだぞ…どうしよう」


「逃げるしかない…良いか、あの二人にはもう『法律』なんて関係ないんだ。怒らせたら国が総出で戦っても蹂躙されるだけだ…俺は田舎に帰る…死にたくないからな」


「ああっ、バウワーを殺した時点で、もう誰も何も出来ねーよ、多分、この世界の本当の支配者は『あの二人』だ」



「なんで、皆、こっちを見るのかしら?まぁセレスは凄い美少年だから解らなくも無いけど…目が合うと伏せて逃げ出すのは解らないわね」



「マリルが可愛いからじゃないかな」


「また、そんな事言って、そういう事、真剣で言ってくれるのはセレスだけだわ」


「そんな事無いですよ」


顔が赤くなるじゃない。


「と、とりあえず、足止めないで、あるくわよ」



◆◆◆


冒険者ギルドに着いたわ。


なんでカウンターを飛び越えて受付嬢が走ってくるのかしら?


しかも明らかに、他の仕事を放りだしたわね。


「『ジェノサイドクィーンのマリル』様に『英雄セレス』様、お待ちしておりました。ギルドマスターが奥でお待ちですのでサロンの方にお願いいたします!あと、私はエターナルラバーの専属になりましたエミリアと申します。これからはカウンターに並ばなくて大丈夫ですので何時でも声を掛けて下さいね」


ジェノサイドクィーン? それ字(あざな)なの? それになんでサロンなのよ!


そうか、そうね、私は兎も角セレスはワイバーンを狩ったんだから、待遇が良くなっても可笑しくないわね。


「解ったわ、だけど前に居た…え-と誰だっけ? 口の悪い受付嬢はどうしたの?」


「ああっ、彼女なら他の支部に移転予定ですね」


「そうか、残念ね」


「残念ですか…ああっそれなら移転中止にします、ご安心ください!」


「そう?お願い」


なんでさっきから、ヘリ下っているのかしら? 


解らないわね。



◆◆◆


「待っていたぞ、エターナルラバーようやくこの間の狩りの概算見積が出たぞ」


「概算見積? 何それ」


なんの事なの?


ワイバーンや地竜のお金なら清算済みの筈だわ。


「まぁ良い、バウワーの買取り値だが、王族側の素材の買取り値段にオークションの買取り値段の下限を合わせて金貨12万枚(1千200億円)以上にはなる。肝があれば、18万枚も手が届いたが、まぁ切り取ったと言うことは使ったのだろうな…クリフ王が残念がっていた!」


何を言っているのか解らないわ。


「はい、あれはどうしても必要だったんです」


「仕方ないな、まぁ誰かから依頼を受けたのか? 『不老不死』に『身体強化』誰もが欲しがる物だからな、まぁ無いのも頷ける」


「はい」


「…?」


「それでな、『冥界竜バウワー』を倒したからクリフ王が『ドラゴンズスレイヤー』の称号と『八花勲章』の授与をして下さるそうだ!王から正式に書面が届く、凄いな!」


「それって凄い事なんですか?」


「ああっ凄いぞ、マリルは家を出されているからな、これで汚名が晴らせるんじゃねーか? 何しろ『ドラゴンズスレイヤー』を貰った奴なんて勇者以外いねーからな」


「それなら喜んで頂きます」


「…?」


「あと、喜べ今日からこの世に8人しかいないS級冒険者だ!おめでとう、冒険者のトップだな。このサロンも使い放題だ」


「サロンって」


「ああ、この部屋で色々な話が出来る。茶菓子や食事、お茶は好きな物をこちらで用意するぞ!何が好みか後で教えてくれ!」


「あの…それは、マリルが好きな、スペシャルカップケーキもお願いできる。そういう事ですか?」


「ああっ可能だ」


「それじゃ、早速、ケーキとアップルシナモンティーをお願いしても良いですか?」


「ああ、いいぜ、それじゃ俺は仕事に戻るが、ゆっくり休んでいってくれ、じゃあな、期待しているぞ!」


「頑張ります!」


「…はっ、余りに突拍子もない話でフリーズしちゃったじゃない? 冥界竜バウワーって何? 国どころか世界を滅ぼせる竜じゃない!」


「あの黒トカゲが、そんな存在なんて知りませんでした!可笑しいんですよ? アレス様のシュミレーションでは『こんな奴子供でも倒せる、瞬殺出来なきゃ話にならん』そう言っていたんですよ」


嘘でしょう? 幾つもの国が連合組んで戦っても勝てない!


そんな伝説の存在なのよ!


昔、暴れた時には大国を含む8つの国が2日間で滅ぼされたのに。


アレス様、耄碌していたとしか思えないわ...


「はっ!あの、もしかしてあの肝って、バウワーの物なの!」


「はい、僕が倒した黒トカゲの物ですね。あれ伝説程凄くないんですよ? 確かに『不老』については本当ですが『不死』は眉唾です。首を切り落とされたり、胴体真っ二つ位なら再生して死なないですが、白いトカゲとかのブレスで消滅させられたら死んでしまいますし『身体強化』だってせいぜいが木々を飛び越えられる程度が精いっぱい、魔法もまぁ使えるようになるけど、アレス様には全然追いつかないそうです!粗悪品ですよ。ですが、もうマリルが病気にならなくなるのは良い事ですが、せいぜいが健康グッズです…さぁ、お茶とケーキ楽しみましょう?」


「そ…そうね」


セレスは絶対に嘘は言わないわ。


後で、森に試しに行こうかしら?


あれっ…その前に..


「どうかしました?」


「えーと、『ドラゴンズスレイヤー』『八花勲章』『金貨12万枚』『S級ランク』」?」


「はい、これでようやく少しは贅沢できますね? 一息つけそうです」


「そうね…」


一息なんて話じゃない。


もはや人生のゴールじゃないかな。



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