第15話 セレス君...それトカゲじゃないから

『働かざる者食うべからず』


だから、今日も僕は狩りに出た。


マリルは『もう一生困らない位のお金があるわ』そういうけど、人間サボっていちゃ駄目だと思う。


だから、働かないといけない。


僕は欠陥品、それを忘れちゃ駄目だ。


人一倍頑張らなくちゃ、折角手に入れた幸せなんだから。


しかし、あの鳥やトカゲがお金になるなんて思わなかったな。


ワイバーンに地竜、冗談みたいだ。


シュミレーションじゃ『こんなのは子供でも狩れる』そう言われていたのに可笑しい。


これがお金になるなら、黒いトカゲや赤いトカゲは幾らになるのかな。


凄く気になるな。



マリルが風邪をひいた。


病気に良く効くのは黒いトカゲの肝だ。


恐らく、肝さえ手に入れれば、マリルの風邪も全快するはず...


だから、この際、黒いトカゲを狩る事にした。


というわけで、黒いトカゲの住んでいる、岩場の谷まで来てみた。


「愚かな人間よ…我は静かに此処にいる、眠っている我を起こすような愚を」


ああ、このトカゲは煩い、幾ら話が出来ても所詮はトカゲだもんな...相手する必要は無いよね。


「人間よ」


ああっ本当に煩い。


喋るから、狩りにくい…


これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ…


喋る奴はやっぱり狩りにくいな…まぁ良いや、無視して戦おう。


「トカゲと喋る趣味はないから…悪いけど狩らせて貰う」


「愚かな人間よ、喋れるなら戦いも回避できようが…齢6千年を生きる我に勝てる存在など居ない…もう良い、死にたいのなら何も言わぬ」


この手のトカゲは本当に煩い。


こういう自分こそが強いという事を馬鹿みたいに繰り返し、言うし…本当にうざいんだよな。


もう聞く耳は持たない。


「これが奥義、光の翼だぁぁぁぁー――」


「貴様ぁぁぁー――人間の分際でぇぇぇぇー-許さぬーーっ」


ああっ本当に全く。


はぁ~本当に自己嫌悪だ…こんなトカゲを倒すのに『奥義』を使わないとどうにも出来ない…はぁ自己嫌悪しかないな。


「我に勝つとは人間よ…誇るが良いぞ…さらば…じゃ…」



さてと肝はマリルの為にとっておいて、後はギルドに売り払っちゃおう。


◆◆◆


「すみません買取をお願いします」


「ひぃ、セレス君…またワイバーンか地竜でも狩ってきたの? あのどれ位?」


ギルドとしては嬉しいのですが、あの後解体やら色々あって2週間帰れなくなりました…また残業ですか…雇われの身としては本当に辛いのよ。


「今日は1匹だけです、ただ、少し大きいのですが…」


「そう1匹なのね?それならいいわ、裏の倉庫の所に出して置いて」


「いやですね?大きいって言ったじゃないですか? 倉庫になんて入りません!」


え~と、今、私おかしな事聞いたのかな?


倉庫ならワイバーン数十羽、地竜だって同じく数十匹入るわ。


そこに入らないっていうの?


まさか、ギガントワイバーン、あんな災害級の化け物を狩ってきたの?


セレス君ならあり得る。


あれ1羽で街が1つ壊滅するのに…


「ギルマス呼んできますね!そうだ、今なら空いているから、ギルドの裏の空き地で待っていてください」


「流石にあそこなら大丈夫です!多分置けます」


「あはははっ待っていて下さいね」


私は走ってギルマスを呼びに行った。



「ハァハァ、ギルマス、セレス君が、セレス君がまた狩ってきました!」


「はははっ凄いなアイツ達はこれでA級だな。流石、このギルドのエースだ!どれ俺も見に行くか?」




◆◆◆


「セレス君、お待たせ、ギルマスを連れてきたわ」


「今日はどんな獲物を狩ってきたんだ、楽しみだ、此奴がギガントを狩ったとか言っていたが、凄いな!」


「受付のお姉さん大袈裟だから、黒トカゲですよ」


「なんだ、ブラックリザードか、おい、ちゃんと確認しろよな」


「なんだ、そうだったんですか? 驚かせないでください!でも大きいんだから亜種かしら」


「折角だから見せてみろ!まぁワイバーン程じゃねーが、ブラックリザードの亜種はすげーよ」


僕は袋から黒トカゲを取り出した。


「嘘…嘘だろう...、これ狩れるものなのか?あっぁぁぁー-ああっ」


「ギルマス…これは..ああっー--っ」


「間違いない、此奴は冥界竜バウワー世界を滅ぼせると言われている真竜の一体だ」


「ただの黒トカゲですよ!大きいだけの、嫌だなぁ~」


「セレス君、これ黒トカゲじゃないからー――っ『冥界竜バウワー』魔王より強い、最強の竜の一体だからー-っ」


「それで幾ら位で買い取りできますか?」


「これはもうギルドじゃなくて、王族が一部買取りをして残りはオークションだ!だが、最低でも金貨10万枚(1千億円)は固いぜ」


「へぇ~これでそんなになるんですね」


そんなお金になるなら、白い奴と青い奴も今度狩ってこようかな?


「それじゃ、後のことはギルドに任せて良いですか?」


「良いぜ、こんな大物があれば我がギルドの成績は間違いなく、今季はトップだ、死ぬ気で仕事してやるぜ!」



「あはははっ今度は1か月帰れないかなぁ~はぁっ」


「それじゃ、マリルが風邪気味なので帰りますね」


「ああっマリルにも宜しくな」


「ええっ伝えておきます」


僕はギルドを後にした。



◆◆◆


「ごめんね、ゲヘッゴホッ」


「僕こそごめん、看病もしないで狩りに行って」


「別にいいわ...ごはんまで作って出かけたんだから…本当に真面目ね」


「あのね…実は病気によく聞く素材があってそれを取りに行きたかったから、出かけてきたんだ」



「そうなの? こんな大した事ない風邪で大げさだわゲヘゴホ…」


「それでも心配なんだ、マリルが死んだら、僕は生きていけないから」


「ななななっ何を言うのよ…大げさよ」


「すみません…それで取ってきた素材で料理を作りましたから、食べてくれますか?」


「セレスが作ってくれたんだから、食べない訳ないわ」


はぁ~しかしセレスは凄すぎるわ…強くてすごい美少年で、家事まで出来るし…更に言うならあっちも凄いなんて…何処が出来損ないなのかしら?


あの伝説の賢者耄碌でもしたんじゃないの…


「あの、すごく不味いんです。薬膳ですから…その代わり効能は抜群です」


「大丈夫よ、セレスが私の為にとってきてくれたんだ物、絶対に食べるわよ…」


「ありがとうございます」


うっ…これがそうなの…確かにマズそうだわ。


ちゃんと焼けているのに…生臭くて気持ち悪そう…


セレスの料理じゃなかったらゴミ箱行きにするわよ。


「うげっゴホッ…ハァハァ…大丈夫よセレス、ちゃんと食べるわ」


不味い、本当にまずいし…苦い。


だけど、そんな目で見られたらパートナーとして『食べない訳にいかないわ』


「うがっげっうっ、もぐもぐ..ゴクリ…ハァハァ」


「マリル、無理しなくても」


「うげっごぼっ、食べるわ…見てなさい…」


私は死ぬ気で流し込んだわ。


何回戻しそうになったか解からないけど、セレスの為だもん全部飲み込んだわ。


「マリル完食してくれてありがとう」


「ハァハァ、だけどこれ本当にまずいわ…なんなの」


「黒トカゲの肝です」


「そうね…確かに風邪によく効いて滋養もあると聞いた事があるわね…でもここまでまずいのね」


「確かにまずいですね…だけど、これを食べるともう一生病気に掛からないし、死ななく...」


「セレス、流石にそれはないわ、滋養に良いとは聞いたけど一生病気に掛からない訳はないわ…ただのトカゲの肝だもの」


「そうかも知れませんね、だけど効いてよかったです。マリルの顔色も良くなりましたから」


「良薬は口に苦し…確かにこれは良薬だわ、気のせいか体がもう辛くない気がする」


「そう、それなら良かったです」


セレス…心配してくれたんだ…


『ありがとう』








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る