第3話 暗黒街の掟

 どの界隈でもその世界を牛耳る頂点たる存在がある。それは皇帝、将軍、勇者、魔王、世界を小さく捉えれば、村長や地方長官などなど。


 当然悪の世界にもそれは存在した。盗賊のボス。裏ギルドのボス。そして…犯罪ならなんでもござれの暗黒街のドン。


 たった今、深夜にも関わらず、うす暗い自室に灯された黒い炎に揺れる人物。アルジニアの闇から私欲を貪る暗黒街の帝王のひとり。その名はドン・フィアゴ

 通称「黒のフィアゴ」。フィアゴファミリーのボスその人である。


 ここはフィアゴの本拠地の地下室。そしてこれから一人の男が絶望の淵の中、命の炎が消える寸前であった。


 フィアゴの隣に傅く痩身の男は、ファミリーの四天王、「黒狼のヴォルフガング」。ドンの忠実な右腕として暗黒街に名を馳せる闇の狩人である。


 下アルジェニ地区に住んでれば貧民といえ、フィアゴと四天王の名を知らない奴はいない。


 沈黙の空気は重く深夜にふさわしい。


 ドン・フィアゴはゆっくりと口を開いた。それは深夜の闇に似つかわしい、暗くそしてなんとも言えない優しい声色であった。


「おおリベリオ氏。同じ下アルジェニに住む同胞よ。さて、困ったことになりましたな。」


 ドンの前に頭を垂れ、じっと動かない「リベリオ」と呼ばれた薄汚い男は闇からの声を浴びてもう一回り小さくなったように見えた。


「夜も深い。話は短くいきましょうか。ところでご自身の行い、我々の界隈がいかに自由と言えど…。」


 室内の黒い炎が灯された蝋燭が揺れた。それは蛇のようにうねると、何者かに命令されたかのように、ボウッと小さな音をたて、リベリオの顔面目掛けて飛びかかったのであった。




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ランナブル‼︎ オレンジ弾丸 @godspeed777

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