第2話 赤煉瓦と欲望の街

 長い夏の終わり、乾いた風が赤く巨大な街に吹き始めていた。

 この街はかつて偉大な冒険者の拠点として、そして今は大陸中の商人が集まる世界最大の拠点でもあった。そして今もその繁栄は沈まぬ太陽の如く、と人々は例える。


 赤い煉瓦と眠らぬ巨大商業都市「サン・アルジニア」


 広大な砂漠を旅する商人が星降る暗天に燃える都市を目指す。千金を目指して、あるいは冒険者が名声を。

 そう世界経済の中央である赤煉瓦に燃える街、サン・アルジニアには全てがあった。

 人々は言う。栄光を捕まえたければアルジニアに行け。


 だが、幾つもの栄光の裏には堕とされた影も存在する。影は集まる。大きくなり闇となる。


 煌びやかで豪華な貴族や富豪を中心とした中央アルジェニ地区とは離れた下流の地区。

 下アルジェニ地区。光より闇が濃い下町。


 王宮府より承認され、正規の依頼を受けて運営する所謂、「冒険者ギルド」ではなく、危険で違法な依頼を扱う「闇ギルド」が多数点在する下アルジェニ地区のとある建物の地下にて、濃い闇が生まれようとしていた。


それはまさしく、欲望の…命を汚す黒い炎であった。


 それほど広くない書斎風の部屋に飾られている品々はどれも逸品。だがほとんどが違法品。通常の取引で手に入るものではなく、それだけでこの建物の主人が闇に携わる人物ということがわかる。


 男がひとり。その容姿は一言で言えば「黒」。そしてそばに佇むは用心棒であろうか、部下であろうか。細身だが野生の狼の如く筋肉質で隙がない、そして灰色の髪の毛はロングのオールバック。まさしく狼のよう。


 もう一人の人物がこの二人のただならぬ男たちの前に跪き、頭を垂れる男いる。蝋燭が揺れ、縮こまった影を映す。明らかに仲間ではなく…。


 赤煉瓦の街を夜の帷が覆い完全にその支配下となった深夜。


 サン・アルジニアの一角でこれから何が行われるのか。

 月が出ていたとしても、地下であるこの建物から始まる物語を知るよしもないのであった。



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