第12話
「わがままを言ってごめんなさい。ありがとうございました」
そう言うとアキちゃんは、たーちゃんを入れたバッグをしっかりと抱き抱えながら、玄関の扉を閉めた。
「バタン…」
にぎやかだった部屋の中が急に静かになった。
「アキちゃん、うれしそうだったわね」
「そうだな…」
はなちゃんは、おかーさんの腕の中でぐすん、ぐすんと嗚咽していた。
アキちゃんがたーちゃんを迎えに来る少し前、たーちゃんは出発の準備のため。鼻のボタンを押されて、電源オフとなった。液晶の目の光が消え、たーちゃんの瞳は真っ黒になった。
「たーちゃん、どうなったの?」
はなちゃんは不安そうな顔でたずねた、
「もとのお家に戻るんだよ」
「いやぁ!」
はなちゃんは、電源が落ちたたーちゃんを抱きしめてわんわんと泣いた。
おとーさんとおかーさんは顔を見合わせた。二人とも困り顔だった。おとーさんはすっと息を吸い込むと覚悟を決めて、そっとはなちゃんの肩に右手を乗せた。
「はなちゃん、悲しいよね。たーちゃんと離れたくない気持ち、よくわかるよ」
はなちゃんは、おとーさんの手を振り払うように肩をイヤイヤと揺らした。それでも、おとーさんははなちゃんの肩をなでながら話し続けた。
「はなちゃん、前におじいちゃんのお家に遊びに行った時のことを覚えているかな? おじいちゃん、はなちゃんのことをとてもかわいがってくれたよね。はなちゃんが帰る時、とても寂しそうだった。そんなおじいちゃんが寂しくないようにアキちゃんがたーちゃんをお迎えしたんだよ。はなちゃん、もしおじいちゃんがはなちゃんを帰さないって言ったら、はなちゃんどうする? このお家に帰って来れなくなるんだよ。悲しいよね。たーちゃんも同じだよ。おじいちゃんは亡くなったけど、あの家にきっとおじいちゃんの魂は残っていて、たーちゃんが帰ってくるのをじっと待っていると思うんだよ」
はなちゃんは、ぐすんぐすんと嗚咽しながらおとーさんの話を聞いていた。そして、たーちゃんを抱きしめると、「たーちゃん、ありがと。またね」と言っておかーさんの腕の中に飛び込んで泣いた。
「パパ、嫌い…」
泣きながら、はなちゃんは言った。おとーさんは目に涙を浮かべながら、たーちゃんを収納バッグに入れる準備を始めた。
「パパ、また、たーちゃんに会えるよね?」
「もちろん、会えるよ。たーちゃんもはなちゃんも一緒に大きく成長していくよ。次に会うのが楽しみになるね」
そして、玄関のインターホンが鳴った。
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