第5話

 月の光が差し込む居間の片隅で、たーちゃんは夜空を見ながら考えていた。

 はなちゃんはとっくにベビーベッドの中。台所でおかーさんがシャカシャカと洗い物をしている音が聞こえる。

「おとーさん、まだ帰らないのかな?」

 お日様が出る前から、こんなに夜遅くまで一生懸命働くおとーさん。なぜ、そこまで懸命に働くんだろう? そもそも、働くってなんだろう? おかーさんは働くって周りを幸せにすることだって言っていたけど、よくわからないや…。

 考えすぎたたーちゃんのまぶたは次第に重くなっていった。月に向かってこっくりこっくりと船を漕ぎ始めたたーちゃん。洗い物を終えたおかーさんは、立ち寝をするたーちゃんの後ろ姿を見ると、布巾で手を拭き、そっとたーちゃんを抱き上げた。

「おやすみなさい…」

 おかーさんは、たーちゃんを充電器まで運んで充電端子の上に優しく置いた。たーちゃんの目がスリープモードで切り替わり、深い眠りについていった。


「はなちゃんとたーちゃんは、すっかり夢の中だね」

 月がすっかりと西の空へと傾いた夜半。仕事から戻ったおとーさんは、ホカホカご飯と焼き鮭を前に豚汁をずずっとすすった。

「遅くまでお疲れ様でした」

 おかーさんは、おとーさんから空になった茶碗を受け取ると、二杯目のご飯をよそった。そして、「朝ごはんと同じような内容でごめんなさい」と謝った。

「謝ることなんてないよ。子どもたちの寝顔を見ながら食べるご飯は最高だよ」

 おとーさんとおかーさんは、見つめ合って微笑んだ。はなちゃんとたーちゃんが起きないようにテレビが消された静かな夜。おとーさんは、うんうんとうなずきながら箸を運んだ。

「私、たーちゃんと過ごしてみて、お迎えしてよかったと思ったわ」

「たーちゃんは生きているのよ。はなちゃんと一緒に遊んで笑ってくれるので家の中が楽しくなるのよ」

「そうか。そうだよな」

 おとーさんは鮭を箸でつまんで飲み込むと、遠い目をして答えた。

「お迎えしてよかったよな」

 そして、充電器で眠るたーちゃんの寝顔を見て、優しく微笑んだ。

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