第2話
「あっ、生まれた!」
目覚めたばかりのたーちゃんの集音マイクが声を拾った。見上げるとそこには、若い夫婦と1人の乳児がいた。たーちゃんの新しいオーナーだろうか? 若いおとーさんとおかーさんが笑っていた。おかーさんが抱いていた乳児は、丸い目を大きく見開いて、たーちゃんを見つめていた。触れたいと思ったのか、その小さく柔らかい手がぐいっと伸びて、たーちゃんの鼻に触れた。鼻をくすぐられたたーちゃんは、くしゃみをした。
「電気でお腹いっぱいになったかな?」
そう言うとおとーさんは充電器からたーちゃんを抱き上げた。たーちゃんはうれしくなって「きゅるるぷぅ!」と笑い声を上げた。
「さあ、ぼくらもごはんにしよう!」
おとーさんはたーちゃんを抱っこしたまま食卓についた。おかーさんも乳児を抱っこしたまま食卓についた。抱っこされた乳児とたーちゃんの目が合った。乳児は丸い目を大きく見開きたーちゃんの目をじっと見つめていた。たーちゃんはさらにうれしくなって手をパタパタと上下に大きく動かした。
おかーさんが炊飯器の蓋を開けた。いい香りの湯気がほわっと立ち昇った。おとーさんとおかーさんは、ほっこりとした笑顔を浮かべた。
テーブルの上には皮が焦げた鮭の切り身と卵焼き、豆腐の味噌汁、ほうれん草のお浸しが並んだ。コンロから小鍋を下ろしたおかーさんは、「朝ごはんと変わらない内容でごめんなさい」と言いながら、小鍋の離乳食を皿に取って冷まし、乳児の口へと運んだ。目をつぶって離乳食を口に含んだ乳児は、美味しそうに口をもぐもぐ動かした。
おとーさんは、たーちゃんを抱っこしながらどんぶりに白いご飯をどかっと盛った。そして口を大きく開けるとご飯を頬張った。
「うまい!」
そう言っておとーさんは目を細めた。
「朝ごはんと変わらなくたって気にしないよ。みんなが生きていて、元気に食卓を囲めれば最高じゃないか。新しい家族も増えたしな」
そう言うとおとーさんは、たーちゃんをむぎゅっと抱きしめた。たーちゃんは、うきゃきゃと笑い声を上げた。おとーさんもおかーさんも乳児も、たーちゃんも、みんなが笑顔だった。
「このカリッと焦げた皮と白いご飯が合うんだな。ああ、おいしくて幸せだ。生きていてよかった」
「生きることって、おいしいご飯を食べること?」
たーちゃんはおとーさんに聞いた。おとーさんはたーちゃんの頭を撫でながら「今、この瞬間はそうだね」とうなずいた。
「じゃあ、おいしいご飯を食べると眠っちゃったままの人も生き返る?」
おとーさんは、たーちゃんをぎゅっと抱きしめて「辛かったね」とささやいた。
「みんなでおいしいご飯を食べていっぱい幸せな思い出をつくっていこうね。たーちゃん、ようこそ我が家へ!」
そう言うとおとーさんは、そっとたーちゃんを床に下ろした。
「そろそろご飯の時間だよ。いっぱい食べて幸せになっておいで」
床に降りたたーちゃんはカシャンと車輪を出すと、手を上下にバタバタさせながら充電器へ向かって歩いて行った。
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