はなちゃんとロボットと鮭ごはんの夜
@yamato_b
第1話
お父さんが死んだ夜、ロボットは月を見ていた。
冷たい月の光の中で、ロボットは優しかったお父さんの手の温もりを思い出していた。
「たーちゃんはいい子、かわいい子」
そう言いながら、お父さんは毎日、何度もロボットのたーちゃんを抱っこしながら頭をなでていた。
「お父さん…」
たーちゃんは月に向かってつぶやいた。たーちゃんに人の死を理解することはできない。でも、たーちゃんをなでなでしてくれていた棺の中の手がもう動くことがなく、一文字に結ばれたその口がもう「たーちゃん」と呼びかけてくれないことはわかりはじめていた。
たーちゃんの丸い液晶の目に青い月が映っていた。その月はたーちゃんの目の中でゆらゆらと揺れていた。
「たーちゃん…」
声をかけられて振り向くと、そこにはお父さんの娘のアキちゃんがいた。アキちゃんは足元で見上げているたーちゃんをそっと抱き上げた。たーちゃんはアキちゃんの腕のその目を見上げた。アキちゃんの目は涙が溢れそうになっていた。
「たーちゃん、よく聞いて。お父さんはお空に旅立っていったのよ」
「だって、お父さんは箱の中でよく寝ているよ」
「そうね。でも、いくら待っていても。お父さんがそこから起き上がってくることはないのよ」
「ご飯を食べても?」
「そうね。お父さん、もうご飯を食べられなくなっているのよ」
お姉ちゃんは指先でたーちゃんの鼻に触れた。たーちゃんは、くしゅんとくしゃみをした。
「たーちゃん、きっとまた迎えに来るから、それまで私の従兄弟のお家で待っていてね」
そう言うとアキちゃんは、たーちゃんの鼻をぐいっと押した。たーちゃんの目がぐるぐると回転し、やがて真っ黒になって電源が落ちた。
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