第38話
それから先のことを、わたしはあんまり覚えていない。たぶん、いろいろな人が来た気がする。特に多くやってきたのは兵士で、親衛隊と呼ばれていた豪奢な宇宙服の人たち。
そのあとにやってきたのは、地球で見る宇宙服よりもさらに分厚いものを着込んだ集団だ。真っ黒で物々しいその宇宙服はいかにも堅そう。おそらくは爆発物を処理するためのチームなのかもしれない。
爆弾。
わたしはすっかり忘れてしまっていたけども、マークちゃんは宇宙を終焉へと導く自爆機能を持ったアンドロイド。
その恐怖を、銀河連合の人たちは知っている。だからこその迅速な反応。
でもわたしは。
気が付けば、違う部屋にいた。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。わたしは真っ白な机に突っ伏し、自分の腕に額をこすりつけていた。
顔を上げると、頭が痛かった。ぼんやりとかすみがかったような感じさえする。課題に追われて午前三時まで勉強していた日の朝みたいな感じだろうか。
「ここはいったい」
立ち上がろうとしたところで、扉が開く音がした。
部屋へと入ってきたのは、スミスさんだった。一瞬見えたその表情は険しかったけども、わたしを見るなり柔和なものへと変わった。
「ああ、起きられたのですね」
「わたし、どのくらい……」
「いえ、それほど眠られていたわけじゃないですよ。そうですね、地球時間で四時間といったくらいでしょうか」
四時間。マークちゃんがおかしなことを言い始めてからもう四時間が経ったの?
「マークちゃんはどうなったの!?」
わたしの脳に、眠りこけてしまう前のことがバッと浮かび上がる。マークちゃんが自爆するって宣言したと思ったら、いろいろな人が来て、それからそれから……。
スミスさんは立ち尽くしていた。どう答えてよいかわからないとばかりに、その目を泳がせているように見えた。
その反応で、すべてわかってしまった。
「クウさんが言ってたのは本当のことなのね……」
「……残念ながら」
「でもどうやって? マークちゃんはブラックホールに入れても何とかするって」
「それは嘘か虚勢でしょう」沈痛そうにスミスさんが言う。「ブラックホールから出てこられたものはありません」
可能性としたら、とスミスさんは言葉をつづけた。
「ブラックホールによって分解されるよりも前に爆発するという可能性はあります。それによって何が起きるのか。私たちにもわかりかねます」
肩を落としてスミスさんが言った。本当にわかっていないらしい。
確か、現在ではアンドロイドをほとんど製造していないのではなかったか。特に、心を持ったアンドロイドという存在はすっかり過去の遺物となっている。あいつは、古代のアンドロイドを発掘している、とスミスさんは言った。
古代ってことはめちゃくちゃ古いってことだろうし、わかってないことも多いに違いない。
そもそもどうして、世界が終わってしまうのかもわかってないのではないか。
ううん。今はそんなことどうだっていい。
「どこのブラックホールに連れて行くんです……」
「あと十七時間で行ける場所っていったら、研究のために用いられている超大型縮退炉だね。あそこ以外はワープでも一日以上かかるはずだから」
「そこへ連れて行ってください」
「え?」
眉を上げたスミスさんが、わたしのことをじっと見つめてくる。わたしの瞳の奥に見え隠れするなにがしかの感情を読み取ろうとしている風に。
「別れの一つでも言いたいじゃないですか。ここまで世話になったんだから」
マークちゃんには世話になった。
本当に。
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