第34話

 宇宙船の船尾にはたいてい、満天の星空を拝むことができる場所がある。実際には後方の敵を目視で捉えるためのものらしい。でも、今は天然のプラネタリウムを楽しむ場所だ。


 そこに、マークちゃんは突っ立っていた。顎を上げ、天を見上げるアンドロイド。その横顔にはアンニュイなものが浮かんでいる。絵画の題材にでもなりそうだ。わたしは絵なんて描けないので、話しかけることにした。


「あ、いつからそこに?」


「たった今。どこにいるのかわかんなくて、探したんだから」


「すみません。ちょっと考え事がしたくなって」


「考え事ねえ。自分が返却させられるかもしれないってことを考えてるの……」


「違います。それはもう、あなたとの戦いですから」


「じゃあ何考えてんのよ」


 それは……とマークちゃんは言葉を濁す。わたしへと向けられていた顔が、また星々へと向けられた。


「わたしが怪我したことを気にしてる……とか?」


「それも、あります」


「別に気しなくていいのに。わたしの選択でそうなったんだから。マークちゃんが自爆して死んじゃったわけじゃないんだし」


 それに、とわたしは言葉を続ける。


「こうやって銀河の中心行きのチケットを手にできたんだしさ」


「そうかもしれませんけど、柔肌を傷つけてしまったことには……」


「もうこれ以上気にしないっ。わたしがだいじょーぶっていったらだいじょーぶなの」


 わたしはマークちゃんに近寄って行って、その手をぎゅっと掴む。


 すうっと熱を奪われるような感覚。つかんだ小さな手は、宇宙の冷酷さを体現するかのような冷たさに満ちていた。


 一瞬、その冷たさに手を放しそうになったけども、あらためてぎゅっと握りなおす。


「別にあんたのことを好きになったわけじゃないわ。でも、放ってはおけないから」


 なんだか、距離を感じる。地球から冥王星までの距離――いや、もっと遠く、ワープではたどり着けないような溝がわたしとマークちゃんの間にできてしまったかのような。


 マークちゃんが息を呑み、笑う。


 はかなげな笑いに、胸がズキンと痛んだ。昔の自分を目の当たりにしている気がした。


 自分を責めている。周りに当たり散らしてもいいってのに、全部抱え込んで、感情を押し殺して、自分を傷つけちゃってる。


 でも、わたしは何も言えなかった。


 言ったところで聞いてくれるとは思えなかった。だって、自分がそうだったから。


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