第33話
BHー02に乗っての宇宙の旅は、前に乗った宇宙船二機とまったく変わらない。でも、子どもみたいに喜んでいるマークちゃんのことを考えるに、見るヒトからすれば結構違うのかも。
わたしにとっては同じで、ひじょーに暇である。
スミスさんの計らいによるものなのか、わたしとマークちゃんは同室。その部屋は、ホテルと間違えてしまいそうになるほどに豪華だった。ふかふかの絨毯、いかにもな木製のテーブルとランプはがっしりと固定されており、戦闘機動でも倒れることはなさそう。
居心地がいいかといわれると、そんなでもない。わたしとしては、もっとこう病室みたいに大人しい部屋の方がずっと好き。
そんな豪華絢爛な部屋は上級士官にあてがわれるものらしい。将棋の対局中にスミスさんが教えてくれた。
「私も苦手ですね。あ、王手」
「そうなの? じゃあ代わってよ」
「そういうわけにもいかないのです。今の貴女方は国賓といっても差し支えないのですから。……王手」
連続王手の果てに、わたしの玉は討ち取られてしまった。ちなみに、スミスさんの将棋歴は一日の八時間。わたしなんかよりずっと頭がいいらしかった。
そういえば、マークちゃんは惚けたように虚空を見つめることが多くなったような気がする。まるでそっぽを向いているネコちゃんみたいでかわいいけども、同時に心配にもなった。
どこかおかしくなったのではないか。でも、マークちゃんがそれを否定してたしなあ。とはいえ、ほかに思いつく理由もない。
わたしにはアンドロイドのことはさっぱり。だから、そういったことに詳しそうなスミスさんに聞いてみた。
「恋煩いなのではないですか」
「は?」
わたしは椅子から立ち上がりそうになってしまった。
わたしとスミスさんがいるのは食堂であった。船員が一堂に会するとぎゅうぎゅうになってしまう小さな食堂。機械がつくった食事は四角いボックスへ入れられてやってくるから、味気ないったらありゃしない。でも味はそこそこで、不思議な感じ。
「恋煩いって誰によ」
「アンドロイドですから、仕えている人にでしょう。だから、貴女ですね」
「んなバカな。マークちゃんはもとからわたしのことを好き好き言ってるし」
かまってやらないと自爆するぞ、と脅してきやがったやつだ。わたしのことが好きじゃないくせしてそんなことをやっていたとしたら、大したアンドロイドだよ。俳優にでもなった方がいい。
「では、大好きだからこそ、考えることがあるのかもしれませんね」
何やら意味深な言葉をスミスさんが言った。わたしは言葉の続きを待ったみたものの、なーんにもやってこない。スミスさんはスプーンでスープをすくっていた。
考えることねえ。
心当たりがないわけでもない。むしろ心当たりしかないというか。
もしかして、思い悩んでるってことはないでしょうね。
宇宙船を壊してしまったこと。
わたしを怪我させてしまったことを。
アンドロイドってそこらへん結構割り切りそうだけど……マークちゃんは普通のアンドロイドとは違う。心を持ってるくせして、誰よりも強い兵器を持っているのだから。
どちらにせよ、一度話をしたほうがいいのかもしれないな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます