第32話
スミスさんが地球でいうところのノーベル賞をもらえそうなくらいすごい人だってことはわかった。
でも、この船がホントにワープできるのかってのは半信半疑だった。宇宙船の心臓部にあたるエンジンが、音もなく始動した際にもそう思っていたくらいだ。
「外、見てください」
わたしは窓の方を向く。ワープ直前に閉じられたシャッターがスミスさんの掛け声にしたがって、ぱたぱたと上がっていく。
分厚い窓の向こうに広がっていたのは、ここ最近ようやく見慣れてきた、宇宙である。
宇宙船は音もなく、光もなく、振動一つ立てずに、ワープしていたのだ。
わたしは目の前に広がる星海が本当のものだとは一瞬思えなくて。
「映像とかじゃないでしょうね?」
「外に出られるとわかると思いますよ。いかがします?」
にっこりと微笑みながら言われると、確認するのはためらわれた。というか、何度目かになるけどさ、スミスさんがわたしたちを騙す理由がないから、本当のことなんだろう。
右舷の向こうに、灰色がかった星が見える。マルスルだ。今まさに、あそこからワープしてきたのだ。
「でもやっぱり、信じられないわね……」
「気持ちはわかります。でも、紛れもない事実です。ガワだけはお粗末ですけども、エンジンやもちろん、ワープ装置も最新式ですから、銀河の中心までは一週間もかかりません」
真っ黒な闇があたりを包んでいく。瞬く星の光、恒星の青白い光すべてが黒に塗りつぶされる。
次の瞬間には、闇は宇宙船後方へと流れ去って行って、星々が先ほどまでのものとはまるきり違うことだってわかった。
「二回目も成功。目標座標との誤差0.001ミクロン。すばらしい」
手元のコンソールを操作しながらスミスさんが言う。その言葉は、親が子供を褒めるときのように優しい。
そう思うと、口の中に苦々しいものが浮かんできた。
――わたしの両親とは違うな。
「いかがしました?」
ふいにそう聞かれて、わたしはドキッとした。考えていることを、胸の中で渦巻いていたどす黒い感情の一つ一つまで知られてしまった気がしたのだ。でもそんなことはないと思いたい。……死んじゃいたくなるくらい恥ずかしいから。
「別に。それよか、操舵室にいないとダメかしら」
「そのようなことはありませんけども」
「じゃあキャビンに案内して。なんだか疲れたから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます