第31話

 中に入っても、その極秘宇宙船は普通だった。シルバーゴースト号どころかハーキスの巡視船と内装まで一緒だった。


「もともとあるものを改装して使用してますから当然ですね」


「大丈夫なの?」


「その大丈夫とは、船のことでしょうか」


「それもあるけど、外へ出られんのかってこと」


「ああ、それこそ心配しなくていいです。そのために試作機を動かすのですから」


「……?」


「本艦は、縮退炉を搭載しています。この言葉の意味を、エンドマークさんならお分かりいただけると思います」


 わたしはマークちゃんの方を見る。マークちゃんは目をこれでもかって見開いて。


「あのエンジンを宇宙船に搭載できるまで小型化してたんですかっ!?」


「ええ。それが私の仕事ですので」


「じゃ、じゃあ少佐ってのは、その功績をたたえられてってことですか……」


 スミスさんが頷く。マークちゃんはうむむと唸る。


 でも、わたしにはまったくもってちんぷんかんぷんで、マークちゃんを肘でつつく。


「どゆこと?」


「ブラックホールをエンジンに利用したんです。もともと相転移エンジンを妨害する物質の存在は知られていて、銀河連合もその物質を用いてワープジャマーをつくったんです」


 わたしはシルバーゴースト号に乗ったばかりのころを思い出す。冥王星の外にワープしようとしたらできないと言われた。それは、ワープジャマーの影響が原因だったはず。


「でもですね、ほかの人間も類似の技術を用いるようになって」


「それで、ジャマーの影響を受けないエンジン制作の任が下りた」


 言葉を継いだスミスさんに、マークちゃんが頷いた。


「よくわからないけどすごいのねえ」


「すごいですっ。天然のブラックホールからエネルギーを取り出すことはできてたんですけど。マイクロブラックホールを安定化させるのが困難だったらしくて」


「いやーたまたまさ」


 言って頭をかくスミスさん。その姿には、戦うことを想定した人たちが漂わせている、威厳のようなものがなかった。


「ってことはスミスさんって、研究者?」


「うん。物理学をちょっと」


「ちょっとってレベルじゃないですよ! 銀河褒章ものです」


「めっちゃ興奮してんじゃん」


「だって!」キラキラした目をマークちゃんが向けてきた。「歴史的偉業を目の当たりにしてるんですよっ。興奮しないわけがないじゃないですかっ」


「そ、そう……」


 詰め寄られる形となったわたしはスミスさんへと助けを求める。彼は、ふふふ、と笑い声を漏らしていた。

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