第29話


 銀河連合本部。それってつまり、あの女がいる銀河の中心まで来いってことだろう。


「でも、宇宙船がないわ」


 待ってましたとばかりに、スミスさんが口を開く。


「宇宙船はこちらで用意しております」


 なんと! 宇宙船まで用意されてる!?


 渡りに船とはまさにこのこと。


 わたしは、天にまします神々に感謝の言葉をとうとうと述べちゃったりした。……口汚い罵りを発したのは水に流してほしいくらいだ。


 だけども、あまりに都合がよすぎないだろうか。


 わたしは「ちょっと相談させて」といい、マークちゃんの首根っこを捕まえる。


「か、顔が近いです」


「いいから静かにっ。あいつのことどう思う?」


「どう思うも何も! あの人は銀河連合軍の少佐ですよ!」


「少佐って偉いの?」


「偉いです。すっごく! しかもあの方は三十台後半でそれを成し遂げちゃってるエリート中のエリートです」


「ふうん」


 妙にあわあわしているマークちゃんに返事をしながら、わたしはスミス少佐を見る。少佐っていうとゲームなんかだと軍隊の偉い人よね……。じろじろと見つめていたら、ウィンクされた。うん、偉いとはちっとも思えない。


「あのカード、なんかおかしいんじゃない?」


「正式なものです! 偽造は絶対できません」


 銀河連合のことをわたしはよく知らない。だから、マークちゃんがそう言うってことはそうなんだろう。たぶん。


 あのスミスさんって人が銀河連合軍の偉い人だとすると、噓を言っているとも思えなかった。だって、銀河辺境に位置する地球からやってきた田舎っぺ(わたしのこと)を騙す理由がない。


「じゃあ、頼みってやらを聞いてもいいよね」


「というか頷くしかないと思います。理事長が望んだってことでしたら、絶対命令に他ありませんから」


「なにそれ、王様かなんかなの……?」


「彼女には権力が集中してるので、王様といっても差し支えはありませんね」


 その理事長は女性らしい。わたしってば女性に何かと縁があるな。どっちかというと、男性との縁がほしい……いや、やっぱ今のはなしで。




 翌日になって、わたしは無事退院ということになった。頭とか診てもらったけども、どこにも異常はないらしい。骨折以外は打ち身とかそんくらい。


 治療費とか入院費とかその他もろもろは、惑星政府から出ることになっていた。賞状の授与とかかったるいしこっぱずかしいからって遠慮してたら、そういうことになっていた。


 少しの間でも働いて返すつもりだったから、タダって言われたときはびっくりしたもんだ。でも、今になってよーく考えると、スミスさんが根回ししていたのかもしれない。わたしが申し出を断ったら、というわけである。真偽のほどは定かではないけどもね。


 さて。


 わたしとマークちゃんは、スミスさんの案内に従って、惑星の銀河連合軍の駐屯地に来ていた。


 マルスル星は二日前の噴火の影響によって、大気が不安定となっている。この星の内核には、地球には存在しない鉱物があり、それが宇宙船のエンジンに悪影響を与えるとか与えないとかで飛び立てないらしい。


「だけど例外もある」


 そう言ったスミスさんが連れてきたのが、駐屯地だったというわけ。


「駐屯地ってそんなのもあるのねえ」


「銀河の警察みたいなところありますから」


 各星系、各惑星の治安を維持するために、駐屯地を置いているとかなんとか。ちなみに、ハーキスが所属しているのはまた別の組織で、戦力を保有してないらしい。


「じゃあ、ここには戦力があるの」


「ありますので、どうかご内密に」


「うっかりしゃべっちゃったら?」


 返事はなかった。ただ、にっこりと笑みを向けられただけだった。


 うーん、こわい。


 そんな話をしながら歩いていると、一つの格納庫へと案内された。


 まずもって、その格納庫の扉には、黄色と黒のラインが無数に引かれていた。警察の規制線に似たそれは、通路がほの暗いのもあってどこか不気味。


 スミスさんが扉に手をかざす。光が走って、緑に光る。生体認証によってか、扉がずずんと重々しい音を上げ、開いていく……。


「あれは、コラプサー級二番艦」


 格納庫には、漆黒の宇宙船が横たわっていた。

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