第28話
病室に入ってきたのは真っ白な制服を身にまとった男。その姿を見た瞬間、ハーキスが脳裏をよぎった。彼が着ていた服装とやってきた男の服装はどこか似ている。似ているけども、男の服装の方がどことなく豪勢だ。
その男は、かつかつとこちらの方へと歩いてくる。病室にはわたしのほかに三人がいて、彼ら彼女らの奇異の目が向けられても、特に気にする様子はない。
こっちにくんな、絶対くんな。
そんなわたしの祈りは、神様にはまったく顧みられなかった。……だから神ってやつは嫌いなんだ。
男はわたしのベットの近くまでやってくるなり、
「あなたが、あの宇宙船の中にいたという」
「そうよ、こっちのがマークちゃん。で、あんたは?」
不躾だとはわかっていても、名前を聞いておきたかった。しょーじきなところ、わたしは身構えていた。宇宙船は指名手配犯が持っていたものだし、何か面倒ごとに巻き込まれんじゃないかと考えていた。
実際はそうじゃなかった。
「私はこういうものだ」
男が胸ポケットへ手を伸ばし、カードのようなものを取りだし、わたしたちの前へ持ってきた。
カードには男の顔写真と「メジャー・スミス」とあった。多分名前だろうか。
それを見たマークちゃんが目をまんまるに開いた。
「こ、こここっ」
「なによ、いきなりニワトリみたいな声出しちゃって」
「違うんですよぅ! この方は、銀河連合軍の偉い人です!」
わたしは男を見上げる。
スーツ姿の男がサングラスを外して、その瞳を向けてきた。
真っ黒な、どこまでも吸い込まれてしまいそうな瞳だ。
「いえいえ、大したものでは」
「違いますよ。あなたは――」
「しっ」スミスさんが口元に指をあてる。「病院では静かにしませんと」
マークちゃんが困惑のままにコクコクと頷いた。スミスさんは嬉しそうに、頷き返している。
そんな彼は、上から下まで黒のスーツに身を包んでいた。白のシャツに黒のネクタイ、黒の革靴。ジャケットに隠れて見えないけども、ベルトも真っ黒に違いない。お葬式帰り
と言われても納得してしまいそうなフォーマルな恰好。
だけども、その顔に浮かぶのは軽薄そうな笑み。目だって人懐っこそうにアーチを描いている。
表情だけだと、ちっとも偉そうじゃない。
「それで、そのスミスさんが何の用?」
「先日、噴火があったでしょう」
「あったわね」
「その時噴き出した巨大な火山噴出物を、貴女方が破壊した、という報告を耳にしまして」
「大したことじゃない」
「いいえ、大したことなのです。ニュースはご覧になったでしょう。多くの命が救われたのは貴女方のおかげです」
銀河連合に所属する生命体に代わって、感謝します。
スミスさんが頭を下げた。ちゃらちゃらした雰囲気と裏腹に、その立礼は非常に綺麗でよどみない。
わたしが唖然としている間に、スミスさんの頭が上がる。
「それでなのですが」
「まだ、ほかに?」
「お願いしたことがあるのです」
「お願い……」
「銀河連合理事会を務めている理事長が、貴女方にお会いになりたいと申されているのです」
「それってつまり」
スミスさんは頷いた。「アルカピアにある銀河連合本部までいらしていただきたいのです」
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