第18話

 ハーリーが教えてくれた座標は、「なぜか」冥王星上であった。


「すごい偶然もあるものですねえ」


 降り積もる氷のつぶてを払いのけながら、マークちゃんが言う。


「あんたねえ、そんなことがあるわけないでしょ」


 わたしはため息をつく。口から飛び出していった白い吐息は、外の映像を映したヘルメットにぶつかって消えた。


 わたしとマークちゃんは今、冥王星の地表を歩いている。一面、真っ白だけど、そのすべてが氷である。氷の平原に氷山……。凍えるような大気の温度は、マイナス200度ほど。


 羽の生えた奇怪な生命体がいるということはないし、ヒトも宇宙服を着てないとたちまち冷凍保存されてしまう過酷な環境。


 そんな中を、マークちゃんはいつもと同じ格好で歩いていた。


「マジで大丈夫なの?」


「はいっ! わたしは頑丈ですから」


「そう。ならいいんだけどさ」

 

 地球で大量生産されているブラウスには、当然だけど、宇宙で耐えられるほどの耐久性はない。フィギュアみたいに固まっていた。スカートもブラウス同様カチコチ。


「ブラックホールに突っ込まれない限り、平気です!」


「あ、そう」


「ブラックホールに入れられたら、中で爆発しますからね」


「しないわよそんなこと」


 ブラックホールがどこにあるかなんて知らないし、どうやって近づけばいいのかも知らない。マークちゃんをブラックホールへ投棄するなんてこと、わたしにはできそうにないな……。というか、投棄しようとした瞬間、自爆されてゲームセットじゃないか。


 わたしはため息を一つついて、犬みたいに首をぶんぶん振って窒素の雪を落としているマークちゃんへ問いかける。


「あとどのくらい?」


「もう少しです。あの山を越えたら見えてくるんじゃないかな」


 マークちゃんが指さしたのは、進行方向にそびえる氷の尖塔。低いながらも槍の穂先を連想させるその氷山にわたしは憂鬱な気持ちになってくる。


「はやくあったかい飲み物が飲みたい……」


「コーヒーなら出せますけど」


「ちなみにどこから?」


「どこからでも。指とか。あなたが望むのでしたらマウストゥマウスでも」


「絶対いやだかんね。ってか、こんなとこで口移しなんかした日には、わたし氷像になっちゃう」


「氷になった姿かあ……」


 悶々とした表情を浮かべていたマークちゃんは「いいね」と呟いた。聞かなかったことにした。

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