第17話

「複雑な事情があるのねえ」


 わたしとマークちゃんの会話を聞いていたハーリーが言った。


「ハーリーにはないの。盗みを働く理由」


「なあに、大怪盗の血筋とか病気の妹のための治療費をねん出してるとか、あるって思う?」


「いや、思わないけど」


「……ま、いいわ。実際あたり。私は愉しみのために盗んでんの。相手が大事に思っているものが奪うとさあ、それはもういい顔すんのよ」


「ヘンタイね」


「変態で結構。もっといえば、追いかけられるのも好きだから、天職なの。この仕事が」


 ハーリーが不敵な笑みを浮かべた。そこだけ見ればかっこいいのかもしれなかったけども、ほっそりとした手には、ピコピコと光る手錠。むしろダサいまであった。


「はあ……」


「何が言いたいのか――って顔してるわね」


「別に。用がないならわたし、もう行くけど。宇宙船に忍び込む準備をしないとだし」


「宇宙船、貸してあげよっか?」


 わたしは、ハーリーを見た。彼女は流し目をわたしへと投げかけてくる。何を考えてるのか計り知れないような意味深な目線。


「なぜ? あんたになんの得があんの」


「得だなんてそんな。でも、そうねえ。理由はたくさんあるわ。例えば、いいことしたら情状酌量してくれないかなーってさ」


「……そんなんで刑を軽くしてもらいたかったら、あと一億回はいいことしねえと無罪にはならんぞ」


 ため息交じりにハーキスが言えば、ハーリーは小さく舌打ち。


「それに、貴女の目的に感銘を受けたってのもあるしね」


「どこがよ。冗談はよして」


「冗談でも茶化してるわけでもないってばあ。ただ、偉い人を殴るために、銀河辺境から中央へ向かうって面白いなーって思ってさ」


「それで?」


「それでって、応援したいのさ。かわいらしい女の子をね」


「…………」


 わたしは、ハーリーの瞳を見つめる。深海を思わせるような濃紺の球体からは、彼女が何を思って考えているのか読み取れなかった。


 この大悪党はいったい何を考えてんだろ……。


 じっと見つめていたら「何も考えてないってば」と手をふりふりハーリーが言う。彼女には私の考えることなんて、全部お見通しらしかった。


 気味が悪い。だけど、渡りに船でもあった。


「マークちゃん」


「はい!」


「宇宙船の操縦ってできる?」


「できます。必要でしたら、セキュリティチェックを行うことも。遅効性のプログラムが仕込まれている可能性もありますからね」


「ひどいわねえ。私は善意から申し出てるっていうのに」


「あんたが盗賊じゃなかったこんなことしないわよ。それで、態度は変わらないの?」


「変わりません。私は大人ですから」

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