第12話

「マジで来たな……」


「ですね」


 わたしとハーキスは揃ったように頷きあった。


 わたしたちの視線は床に転がった人間へと向けられている。ちりちりになってしまった髪の毛から煙が上がり、白目をむいている女性だ。ハーキスと取っ組み合っていた女性その人である。


 女盗賊は果たしてやってきた。


 それもあろうことか宇宙船を横づけして、堂々とである。彼女にどのような作戦があったのか、わたしにはわからない。そのどれもが、待ち受けていたマークちゃんには効果がなかったよう。


「で、テイザーガンの餌食になったってわけか……かわいそうに」


「ふふん」


 わたしたちのところまで女性を連れてきたマークちゃんが、誇らしげに胸を張った。


「どーですか。捕まえましたよ」


「あ、ああ。確かに」


 ハーキスは未だ困惑しているみたいだったけど、懐から手錠を取りだし、女性の手首に回す。それが終わると、どこかへ――おそらくは牢屋へ――女性を抱えていった。


 残されたわたしの下へと、マークちゃんが近づいてくる。目前までやってきて、上目遣いでこちらを見てくるさまは、ダックスフントのよう。


「んっ」


「な、なによ」


「頭」


「頭が痛い?」


「ちがいますっ。撫でてください」


「…………」


 マークちゃんの頭が近づいてくる。このまま撫でないでいたら、その頭でドリルのようにぐりぐりされてしまいそうな勢いだ。


 何がそこまで彼女を駆り立てるのか知らないけども。


「わかったわかった」


 わたしは手を伸ばして、そっと頭に手を乗せた。ふんわりとした感触がほんのりとした熱とともに伝わってくる。左右に小さく動かせば、さらさらと絹糸のように黒い髪が流れた。


「あぅ……くすぐったいです」


「変な声出さないでちょうだい。勘違いされるでしょ」


 ちょうどその時、背後で物音。


 バッと振り返れば、ハーキスが戻ってきていた。


 ハーキスがぎょっとしたように、わたしたちの方を見てきていた。信じられないものを前にしてしまったみたいな驚愕が、その厳めしい顔にはありあり浮かんでいた。


「ちょっ! ご、誤解しないで」


「あ、ああ。誤解、うん、誤解な」


「わたしはマークちゃんに言われて、頭を撫でてるだけ。それだけなんだからっ!」


 そんなことを言っている最中に、マークちゃんがくすぐったそうに声を上げる。


「もっと気持ちいいところ、触ってください」


「あ、バカっ!? 誤解を招くようなことを――」


「あとはお若いお二人でやってくれ!」


 顔を真っ赤にさせたハーキスが脱兎のごとく操舵室を出ていった。


「ちょっと!? 誤解だって言ってんじゃん!」


 そんな訴えも、ハーキスの耳には届かなかったらしい。足音は聞こえなくなってしまった。


 ずーんと気持ちが落ち込むわたしのそばで、むにゃむにゃと心地よさそうな声をマークちゃんは上げるのだった。

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