第8話

 わたしは、女性の方へと近づく。


「男を見張ってほしいんだけど」


 わたしの言葉に「はあい」という気の抜けた返事がやってきた。心配になると同時に、さっきのテイザーなんちゃら威力を考えると大丈夫な気もする。


 女性の体を起こす。四肢には力がなかった。一瞬、ドキリとしたけども、呼吸はしているようだ。たぶん、男から伝わった電気で気絶してしまったんだろう。


「大丈夫ですか」


 呼びかけながら、女性の肩を叩く。何度か叩いていると、女性の目がぱちりと開いた。


「あ、あなたは……?」


「わたしは――通りすがりの一般人です。あっちはマークちゃん」


 男のまわりをうろちょろしていたマークちゃんが、女性へと手を振った。困惑しているようにパチパチとまばたきした女性は、男をぎょっとしたように見た。


「あいつは、あの男はどうなったの!?」


「あの人ならマークちゃんがこらしめたよ」


「そ、そうですか」女性は飛び上がるように喜んだ。「じゃ、じゃあ私はこれで」


「ああ、こんなところにはいたくないですよね。襲われそうになったわけだし」


「そうなんです。いきなりあの男が、私に乱暴を……!」


 助かりました、と頭を下げながら女性が立ち上がると、今の今まで気絶していたとは思えないほど素早

い動きで、宇宙船の外へと行ってしまった。


 何かから逃げるような反応に、わたしは呆然と見送ることしかできなかった。


「……なにあれ」


「たぶん、無重力に慣れてる人ですね」


「慣れてるって、あの金持ちっぽい人が?」


「慣れてないとあんな素早く動けませんよ。もしくはわたしのように宇宙での動き方をプログラムされてたか」


「アンドロイドってことなんかな」


「でも、たぶん違います。アンドロイドからすれば仲間ってすぐわかりますから」


 わたしは相槌を打ちながら、男の方へ向かう。


 ガタイのよい男であったけども、今なお気絶している。ぷんと肉の焦げたようなイヤな臭いをまとった男を、つま先でつつく。


 男は何度かうめき声を上げ、不意に飛び上がった。


「あいつは、あいつはどこ行った!?」


「逃げたよ、犯罪者さん」


「犯罪者?」鷹のような目がわたしを見た。「バカ言え、犯罪者はあっちだ」


「は? 冗談言わないで。あんたはあの女性に暴行しようとしてたから、わたしたちはあの人を逃がしたの」


「違う、まったくもって違う。アンタらは、あいつを助けたつもりだろうが、アイツこそが重罪人なんだぞ!」


 怒りのこもった言葉を耳にしたわたしとマークちゃんは顔を見合わせた。

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