第9話

「認証完了。本物だ、これ」


 男からカードを受け取ったマークちゃんが、目を七色に輝かせて言った。


 カードには、純白の軍服に身をまとった男の写真と、奇妙な文字が記されていた。と思ったら、その文字は形を変えた。第42機動隊所属、ハーキス。見慣れた日本語であった。


「だから本物って言っただろうが」ハーキスという男が言う。「アイツが犯罪者ってこともわかったか?」


「はい。それもデータベースにありました。宇宙を股にかける女盗賊らしいです。千の偽名を持つ女だとか」


「そうだ。国家機密から家庭のクッキーまで奪っていくようなはた迷惑なやつだよ」


「クッキーってしょぼいもん盗ってるなあ」


「それだけなら、まだかわいいもんだがな。連合軍の船まるまる奪われた時は大騒ぎだったよ」


 じゃなくてな、とため息交じりにハーキスが続ける。

「そんなやつを折角掴まえたっていうのに、逃げられてしまったんだぞ! これがどういうことかわかってるのか?」


「さあ……」


「最悪銀河連合に対する反逆と取られても仕方ありませんね」


「ええっ!? マジで言ってんの?」


「マジだ。大マジだよ」


 反逆ってことは、その銀河連合っていうのがどういう組織か知らないけど、こっちを罰してくるかもしれないってことだよね……。


 もしかして、わたし、前科持ちになってしまうのか


「あ、あんたが紛らわしい見た目してるから悪いんじゃないっ!」


「はあ!? 言うに事欠いて、オレの姿をバカにすんのか。どこが悪いってんだ」


「その悪人面よ!」


「悪人面で悪かったな!」


 わたしはハーキスを睨みつける。ハーキスもまたわたしを睨みつけてきた。


「まあまあまあ、お二人とも落ち着いてください。ワタシに考えがあります」


「考え? またろくでもない――」


 そこまで言ったところで、マークちゃんがわたしにウィンクしてきた。何か妙案がある様子。わたしは方向転換して「何でもない」ということにした。


「なんだよ、その考えってのは」


「逃がした女性を追いかける協力をさせてもらえないですか?」


「逮捕されたくないからか?」


「まあ、そうなりますね」


「あんたらは足手まといになりそうだが」


「そんなことありません。ワタシには千の武器があります。お隣さんは知りませんけど、ワタシは役に立ちますよ」


「おい、わたしは」


 ふうむ、と呟いたハーキスが腕を組んで考えこみ始める。


 わたしは、マークちゃんの脇腹をつっついて、その耳に口を近づける。


「く、くすぐったいです」


「我慢して。今のはどういうことよ」


「協力を申し込んだんです。これなら捕まることはありませんし、ほら、あなたの目的も達成できるじゃないですか」


「わたしの目的……あ、船を奪う」


「もしかして、忘れてたとか言わないでくださいね」


「もももっもちろん忘れてないわ!」


「み、耳がキーンってします……!」


 耳元で叫んでしまったからか、マークちゃんが耳を押さえてもだえる。ちょっと申し訳ないことをしてしまった。


「何こそこそ話をしてるんだ?」


「別に何も話しちゃいないわよ。それでどうなの」


「いいぜ。そこのアンドロイド? に免じて協力してもいいぞ」


「いちいち上から目線でムカつく……」


「あんたらのせいなんだから当たり前だろっ!」

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