第4話
「決めたわ!」
鬱々としてしまった空気を払拭すべく、わたしは大きな声でそう宣言する。
窓の外から見える菜の花畑をぼーっと見ていたマークちゃんが振り返った。
「ワタシとの生活を、ついに決めたんですね」
両手を合わせて、目を輝かせるマークちゃん。そんな彼女にわたしは首を振る。
「違うまったく違うから。アルカピアってとこまで行くって決めたの」
「どうやって?」
「どうやってって、そりゃあ宇宙港から」
「アルカピア行きの宇宙船、いくらか知ってます?」
「しらないけど、そんなに高くないんじゃない? 宇宙船旅行なら結構ありふれてるし」
わたしは「宇宙の歩き方」を見る。WEB版はただで見られる代わりに広告がべったり貼り付けられていた。そのほとんどが、宇宙ツアーや惑星旅行に関するもの。火星一週間旅行とか、今年の冬は水星で温まりましょう、とかそんな感じである。
ネットロアとかオカルトのごった煮みたいな地図だけど、太陽系内に関していえば、これほどまでに正確なものはない。
「海王星までは五十万だから、五百万くらい?」
「もってます?」
「持ってるわけないじゃん。わたし、学生。オーケー?」
マークちゃんは親指を立てた。「知ってます。それに、五百万円じゃいけませんよ。桁が足りません」
「ってことは五千万……?」
マークちゃんが首を振った。わたしはピースサインをする。桁が二つ上がって五億。でも、マークちゃんはまた首を振った。つまり、もっと高いってことだ。
「日本円にして一那由他かかります」
「那由多ってマジ言ってる? 海王星までは安いのに?」
「それは太陽系が銀河の辺境もいいところだからです。何もないですし、銀河連合換算ではそれほど高価ではありません」
「だからってそんな横暴な」
「横暴だっていったって、銀河は太陽系よりもずっと広いし危険なんですよ。不定形の生物とか虫みたいな生物に寄生されたいですか」
ブンブンと羽音を立てて近づいてくる虫を想像する。気持ち悪い。一生、わたしの前に出てこないでほしい。
「まあワタシがいればそんな雑魚、ひとひねりなんですけどね」
「爆発するつもりじゃないでしょうね……」
「それもありですけど、そんなことしなくても、こぶし一つで勝てますって」
「本当に?」
自信満々といった風に胸を反らせているマークちゃんは、わたしとそんなに変わらない――胸以外は――見た目をしている。筋骨隆々ってわけじゃないし、バケモノどころかウサギにだって負けてしまいそう。
「あー信じてない。わたしは銀河最強のエンドマークちゃんなんですよっ。一人で星を砕くなんてお茶の子さいさいです!」
「ホントかなあ。……あ、いいこと思いついた」
「なんですなんです。このワタシに教えてくださいな」
「いや、悪いことした人のかっぱらえばいいんじゃないかなーと」
「悪人のを奪うってことですか?」
「それなら、誰も文句は言わないでしょ?」
「しかし他人の船を奪うのは航宙法第六条に違反してます」
「犯罪者の首をつき出したら許してもらえないかしら……」
一那由他なんてバカみたいな金額を高校に進学したばかりのわたしが払えるわけがなかった。だからといって、あの女神ぶった女に文句は言いたいし、マークちゃんも返却したい。でも、密航するわけにもいかないしなあ。酸素が足りないからって宇宙へ放り出されるのは最悪だ。
やっぱり、犯罪者の宇宙船を奪うっていうのは妙案だと思う。
問題は……。
「犯罪者がどこにいるのか、ってことよねえ」
わたしはノートパソコンのキーボードに指を這わせる。背後から「あなたって頑固ですよね。そういう
とこが好きなんですけど」というマークちゃんの声が聞こえてきた。
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