第3話

 わたしはローテーブルに置いたノートパソコンを睨みつけていた。


 画面に表示されているのは星図。どこにどんな星があって、どんな生物がいるのかが書かれた観光地図である。もちろん、人類は冥王星から先へ行けてないので、オカルトの域をでないものだったけど。


「何見てるんですか?」


 後ろから、マークちゃんの声が聞こえてきた。


「『宇宙の歩き方』って地図。着替え終わった?」


「あ、はい。終わりました」


 振り返ると、マークちゃんは服を着ている。うちの中とはいっても、いつまでも全裸でいられたらたまったもんじゃない。というわけでわたしの服を貸した。


 それにしても……。


「ぱっつんぱっつんで、なんかいやらしくない?」


「い、いやらしいですか」


 マークちゃんが恥ずかしそうに身もだえする。そのたびに、胸がぶるんぶるんと揺れていた。わたしが貸したのはブラウスとフレアスカート。だというのに、これほどまでにセクシーだとは。


「……わたしが着たら、地味だのなんだの言われたのに」


「元気出してくださいっ! あなたはすっごく魅力的です!」


「そんなことはどうでもいいの。今は、どうやってあの女がいるところに向かうのかが問題」


 わたしはノーパソの画面をマークちゃんへと突き出す。今、表示しているのは、天の川銀河。タッチするとその部分の星系のことがわかるようになっている。……のだけど、あまりに星が多すぎて、どこがどこだかぱっと見ではわからない。


「このどこに、そのなんちゃらプログラムを管理してるやつらはいるの」


「そうですね。ちょっとお待ちを」


 言うなり、マークちゃんが近づいてくる。また抱きしめられるんじゃないかと身構えたけど、肩ごしにモニターを見つめはじめる。


「何してんの?」


「URLを読み込んでます。……完了。この地図なら、似たようなものがワタシの内部にもあります」


 表示しますか、という問いかけがやって来たので、わたしは頷く。


 そうすると、マークちゃんの頭から光が飛び出す。それは、目から出た光と違い、空間の上に像を結んでいく。


 見上げれば天井とマークちゃんの小さな頭の間に、小さな銀河が浮かんでいた。


「これが、地球がある星系です」


 銀河が急速に大きくなっていく。目のようなそれに吸い込まれて食べられてしまうのではないか、と錯覚してしまうほどにその映像は綺麗。


 拡大された銀河は、無数のつぶつぶからできていた。その一つひとつが恒星の瞬き。オレンジ色の恒星の一つがフォーカスされて、大きくなっていけば、それが太陽であるとわかった。


 部屋の中に太陽系が浮かんでいる。その中の第4惑星、水をたたえた蒼い星が大きくなった。


「我らが地球ですね」


「わたしたちのだけど。じゃ、あんたはどこから」


「銀河の中心です」


 地球が急速に小さくなっていって、最初の銀河系が戻ってくる。そして、渦巻く中心へと吸い込まれていくように、銀河が大きくなっていく。


「太陽系に似てる……」


「生命が誕生するための一つのアーキタイプらしいですよ。ここが銀河連合の本拠地です」


 地球に似た惑星が浮かび上がる。その上には、アルカピアとある。


「このアルカピアって星に、あいつがいるのね」


「はい。人類保護プログラムは銀河連合によって管理・運用が行われています。もちろん、ワタシたちアンドロイドもです」


「絶対、のしつけて返してやる」


「あはは……そんなことを言われると爆発したくなっちゃいますね」


 マークちゃんが耳元でささやいてくる。ぞわりと肌が粟立った。


「ば、バカ言わないでよ。あんたが爆発したら、わたしまでいなくなるわよ」


「それが問題なんですよ」ため息交じりにマークちゃんが言った。「自爆しちゃったら一緒にいられない」


「そうよ。だから自爆なんかしないで」


「そう言ってもらえると嬉しいです。じゃあ、返却しないでもらえますか」


「…………」


 わたしは答えられなかった。こんなにもかわいらしいマークちゃんに言うのはどうかと思うけど、爆弾なんかと一緒にいたいと思う人間はそう多くはない。わたしは、御免だ。


「だから、自爆するっていうしかないんです」


「……やっぱり重いよ」


「かもしれないですね」


 マークちゃんが寂しそうに笑う。そんな表情をされると、何も言えなくなっちゃうじゃない。

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