第28話 危険な密着、風のようにタンパク質投下。
ハローワークで、就職先を見つけた僕は、フクロいっぱいの小銭をもらって外に出た。街ゆく人たちは、洋服ではなく、ラフな着物姿だ。
ゆったりと楽そうで羨ましい。
僕の生きた時代から100年も時代がたっているのに、衣服は過去に遡っている。
やはり僕が住んでいたところに似ているが、ここは8分の5次元、別の進化を遂げた世界なのだ。
「あ、懐かしい看板」
角地にコンビニが見える。コンビニはどこも同じだ。
しかし近くに行くと、看板は木の枠組みに、和紙を貼ったもので、
中で小さな蝋燭が燃えている。ある意味風情がある。
しかし、コンビニはコンビニだ。
コンビニがこれほどの安心感を与えてくれるとは。僕は少し泣きそうになった。
2123年にもコンビニのシステムは同じらしく、難なくパンコーナにたどり着く。
YES!!
僕はパンオーナーで、「チョコチップ入り メロンスティック6本入り81cal」を手に取り、レジに向かった。
レジで対応していたのは、人肩に識別番号があり、青色の髪をした少女。初音ミクが、コンビニでバイトしている!!
8分の5次元、悪くないじゃないか!
「ミクさまだ!」
「ただいま、初音ミク116年アニバーサリー、キャンペーン中です。からあげクンも一緒にいかがですか?」
僕は、ミクさまの申し出を丁寧に断ってから、
「チョコチップ入り メロンスティック6本入り81cal」だけを持って、
イートインコーナーに行った。
イートインコーナーには、病院で出会った、いけすかない看護師ラムが先に座っていた。
しかも席は一つしかないというのに。ラムはノートに何か書き込んでいる。
僕は、きちんと商品を買った客だ。その席に座る権利は僕にある。
「ちょっとどいてもらえませんか?僕は客ですよ」
ラムが振り返った。
「あなたは、何もかもが遅いし精度が悪い。無駄の塊だ」
「無駄の塊で悪かったな!」
僕はムッとした。
「だから死んだとしても、誰も損をしない。悲しまない、我が国の損失にならない
だからすぐに就職先決まったのだ」
「何?だから 僕はシルバーアローに採用されたのか?」
「ウイ」
「ゲームマスターから、お前の胃にタンパク質と、炭水化物を投下するように指示された、だから私は訪れた」
「なるほど」
お腹が空きすぎている僕は「チョコチップ入り メロンスティック6本入り81cal」の封を開けて、一本を口に入れた。
「おいし⭐️」
外側はカリッとして、中はもっちり食べ応えがある。時々遭遇するチョコチップが
お得感を際立たせる。
このパン、何だか懐かしい味がする。
そういえば・・・僕はいつも・・・
「わあああああああ」
しかし記憶を探ろうとすると、風をつんざくよう、黒板を爪で引っ掻いたような音がして、強烈な頭痛に襲われた。
ラムが勝ち誇ったように、席から立ち上がった。
「あまり過去を詮索するな、現状を理解してここで生きることを優先しな。
私たちは、金利18パー、リボ払いん100年分のローンを払ってもらわないといけないから。ただし、あなたが死んだら保険会社からお金を支払われるからそれでもいいけどね」
「だから危険な仕事を斡旋されたんだな、
どちらにしてもあんたは損しないシステムなんだ」
「ウイ」
「私のバイクで、タンパク質と炭水化物補充にいくよ朱雀」
「わかったよラム、僕は諦めた」
「ウイ。よくできた、諦めは肝心だ」
「我々は、今から4バルブJK12Eエンジンを搭載した 8BJ-JK12スクーターでタンパク質と、炭水化物の補充に向かう、リアに座って私の腰をすっかり掴んで離すな、これは命令だ」
僕は、ラムのスクーターの後部に乗って少し遠慮気味にラムの腰に手を回した。
「それでは、危険だ朱雀、もっと体を密着させて、しっかり体をホールドしないと死の危険が訪れる!!」
僕は、ラムに体を密着させた。ラムの柔らかい腰に手を回すと、うっかりラムの巨乳に手が触れてしまった。
僕の心臓はBPM120を遥にこえた。死ぬ。
「すみません」
「何のことだ?行くぞ朱雀!」
僕たちは、8BJ-JK12スクーターに2人乗りして、
風のように出発した。
続く
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