第29話 星降る夜、海の向こうに魔監獄!
ラムのドライブする、ホンダ・8BJ-JK12スクーターは、
木造家屋がひしめく市街地を抜けて、急な山道に入った。
僕はスクーターの後ろシートで、
ラムの背中にピッタリと体をつけて、全身で風を感じていた。
「あったかい♡」
ラムの背中は温かくて、シャンプーのいい匂いがした。
この匂いはメリットシャンプーに違いない。
僕はとても満ち足りた気分だった。
「朱雀、今から少し揺れるからな、振り落とされんなよ!!」
「はい??」
ラムはさっきまでの穏やかな運転とは打って変わり、
アクセルスロットルをいっぱいまで回した。
エンジンの回転数が急激に上がり、
スクーターはうなりをあげて急加速した。
「ひええええええええ」
風景がふっとぶくらいの速度なのに、
ラムは平然とさらに加速する。
「やめてくれ!!!!!」
「え?朱雀何か言ったか??我々は、天下御免のシルバーアロウズだぞ。
だが誤解のないようにいうが、30キロ以上は出していない、ギリ35キロだ。
タイムを縮めることと、アクセルを開くことは同義ではない。要は慣性の使い方と、荷重移動によるグリップ力の問題だ、減速の谷間を作らないことが重要なんだ」
「????????」
ラムは、急勾配の曲がりくねったカーヴを、車体をやや傾けながら、早めに減速して、左車線の白線ギリギリ、アウトから侵入してクリッピングポイントを通過してコーナーをクリアすると、アウト側に加速してまた次のカーヴを目指した。
「う・・気持ち悪い・・・死にそ」
「朱雀、だったら後悔する前に死ぬか??
こんなテストを耐えられないようでは、
シルバーアロウズのメンバー失格だな」
「これは、テストれすか?」
「なんだと思っていた??
私はずっとシルバーアロウズ入団テストをしているのだぞ」
「そうすか・・まだ就職決まってないんれすね・・世の中甘くないれすね」
約20分のスプリントテストのあと、ラムのスクーターはまちが見下ろせる高台の広場で停車した。知らない間に太陽は沈み、空には星がまたたいている。
「寒い・・」
僕がそういうと、ラムは自分が来ていたジャケットを脱いで、
僕の肩にかけてくれた。
なんだこのツンデレ感は!?
これもテストか!?何か裏があるに違いない!!
「朱雀、そのジャケットは、シルバーアロウズ、プレミアムジャケットだ。
マイナス1000度、摂氏5000度まで耐えられるスグレものだ。
中の人体は消滅しても、ジャケットは残る」
「ダメじゃん」
「シルバーアロウズファンクラブ、特別価格50000000万円にしといてやる」
「お金取るんすか、やっぱり」
「安心しろ、リボ払いだ。それよりあの島をみろ」
僕たちが見下ろした先に、美しく瞬く街の明かりが見える。
そしてその向こうは、夜の海だ。
「夜の海、綺麗っすね」
「違う、何を悠長なことを言っている!?
これだからO型は!!その向こうをみろ!」
確かに、海峡をこえたすぐ向こうに島が見える。
「あの島ですか!?」
「そうだ、我々の名前でオノコロ島、
奴らは、コードネームでこう呼んでいる ”死の翼、アルバトロス魔監獄”!
朱雀が、君がシルバーアロウズに採用されたのは、アルバトロス魔監獄を攻略するためだ」
「死の翼、アルバトロス魔監獄??僕にはただの島にしか見えませんけど」
「オノコロ島は、南北に約53キロ、東西に22キロの人口に作られた島だ。太古の昔我々の先祖が、最初に作ったとされる伝説の島だ」
「はあ??」
「しかし、今は、いや、人類の叡知を結集した人工知能、”
そこにある監獄に、ある人物が幽閉されているという情報を掴んだのだ」
「監獄??」
「我々シルバーアロウズの任務は、人工知能、
「どんな人物??」
「それは言えない、最重要秘密だからな。
テストはまだまだ続くぞ、今のうちに糖分を脳に補給して体温を高く保っておけ」
ラムは、自分の右のポケットで保温されていたあったかい缶コーヒーを僕に渡してくれた。
きゅん♡
「これも有料ですか?」
「もちろんだ。世の中にただのものがあったら、
感謝する前にまず疑え、
それがシルバーアロウズで生き残る唯一の方法だ」
「寒いです」
「極寒の任務では、いかに自分が発生させた熱を、効率よく持続させるかが生死の別れめになることもある、いいかプライドは今すぐここに捨てていけ、泥水を啜っても生きる道を探せ」
そういって、ラムは僕の肩に体を寄せた。
「いいか、君の肩に我々の未来がかかっていると言ってもいい」
「はい・・・・」
僕は缶コーヒーに口をつけた。
「あまあああああああい」
こんな甘いコーヒー飲んだらまた体重が増えてしまうよ。
「砂糖は貴重品だ、いやでも鼻つまんで飲んでしまえ」
僕たちは、寒空の下、肩を寄せ合って、
缶コーヒーを飲みながら、
遠くで瞬く街の明かりを見つめた。
そのうち、煌めく街の一角から一筋の煙が上がるのが見えた。
と、同時に、ラムが自分の手首に巻いてある、時計を確認した。
「よし、時間だ。朱雀、次のテストに移る」
「まだ、またテストですか??」
「不用意な言葉は吐くな、本心をかくせ。
誰も信じるな、信ずるべきは己の信念のみ、
上官であるこの私でさえ、疑ってかかれ」
看護師だとばっかり思っていたラムが自分の上官だと、
この時初めて知った。
続く
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