第8話 昔話の終わりと冒険の始まり

「ヘヘヘ……コレデ……継グモノ……殺セタ……私ノ……役メ……終ワリ……」


フードの男はそう言うと、着ていたフードだけを残し、体すべてが黒い砂になってシャンと崩れ落ちていったと他の冒険者が言っていた。


俺はというと、それどころではなかった。

あいつに駆け寄り、必死に傷口を手で押さえたが、オズワルドの血は止めどもなく流れ出た。


「あぁ、嘘だろ、オズワルド。い、医者だ!すぐに来てくれ!」


フードの男の攻撃は心臓から若干外れていたが、致命傷には違いない。オズワルドの死は時間の問題だった。


医者は必死に走って来てくれた。

街を救った英雄を助けようとした。

だがオズワルドの傷を見ると悔しそうに唇を噛み、すぐ様他の奴の治療に戻っていった。

俺は青ざめたよ。


「待ってくれ!頼む、オズワルドを助けてくれ!」


俺は情けなく叫んだが、医者はもう見向きもしなかった。

だが勘違いはしないでほしい。彼が迅速に動いたおかげで、ほとんどの冒険者が死なずにすんだんだ。

……実際オズワルドは治療をしたところで助からなかった。

医者の判断は、正しかった……。


オズワルドはそんな俺を見て言ったんだ。


「心配するな、ローガン、俺は今最高の気分なんだ……」


「は、話すんじゃない、傷口が……」


苦しいはずのあいつはニッと笑ってみせた。


「やっぱり、予言通りだった」


「予言?なんのことだ?」


あいつは俺の目を真剣に見つめこう言った。


「いいか、ローガン。今から俺はお前に大事な話をする」


遺言でも最後の頼みでも、俺は何でも聞いてやると心に誓った。

あいつが一撃を放った後、俺の打ったロングソードは砕けてしまったのだ。

そうだ、オズワルドの一撃は完璧だった。

ただ武器が悪かったんだ。

もしあの剣がちゃんと完成していたなら、男にとどめをさせていたはずだった。


オズワルドが死ぬのは自分のせいだ。

今でもそう思っているよ。


「ローガン、俺はこの世界の人間じゃない、異世界人だ」


「異世界……人」


「そうだ」


普通に聞けば信じられるような話ではないがこんな時だ。俺はすんなり奴の言葉を受け入れられた。


オズワルドは懐から文の様なものを取り出し、俺に手渡す。


「これは俺が旅の間に調べ上げた物だ。お前に託す」


何が書いてあるかも分からなかったが、俺はコクリと頷いた。


あいつは俺が文を受け取るとほっと安心したように表情を和らげた。


「予言では、いつかこの町に俺と同じ異世界からの少年が来るはずだ。ローガン、その少年が来たら、助けてやってくれないか」


だんだんとやつの声が小さく力なくなっていくのが分かった。


「わ、分かった分かったから!」


「……何故泣く、ローガン……」


「だ、だって……」


俺は頭では分かっても諦めきれず、もう一度オズワルドの傷口を必死で押さえた。それでも血はとめどもなく溢れる。泣いては駄目だと分かっていたが、涙は勝手に流れていった。


「予言者の婆が言ったんだ、俺は成し遂げられずに死ぬって……」


「馬鹿野郎、そんな予言者なんかの言うこと……」


「あぁ、俺もそんなことは信じないって言ったんだ。嫌な予言だって。でもな、今では予言通りでよかったと思っているんだ」


「な、何を!」


「予言者はこう言った。大切な友を守って死ねると……その友の近くで息絶えると……」


「オズワルド……」


「あばよ、ローガン。楽しかったぜ」


あいつ……あいつははそう言うと、スッと目を閉じた……。


安らかな死に顔だった。



ーーーーーーーーー



「これで終わり。……長い昔話だ」


僕はごしごしと涙を拭った。

ローガンはパイプをこんこんと叩き灰を落とした。


「さぁ寝るぞ。明日は早い」


僕はローガンが用意してくれた寝具に横になりながら色々な事を考えた。

この世界の事、ローガンの事、オズワルドさんの事、僕自身の事。

いくら考えても考えはまとまらず、疲れ切っていた僕はいつの間にか深い眠りについていた。




次の日の朝、ローガンのハンマーの音で目が覚めた。

慌てて着替えをする。

僕はお世話になっているローガンを少しでも手伝いたいと思っていた。

だからどんなに朝早くても、どんなに大変な仕事でも、手伝わせてほしいのだ。


「早いな、起こしちまったか?」


「ち、違います」


僕が何か手伝いたくてそわそわしていると、ローガンはそれを察してくれたのか、


「水を汲んできてくれ、たくさんだ。今日はこれが終わったら、朝飯を食って、出かけるぞ」


「は、はい!」


水汲みは裏の井戸を使う。昨日初めて水を頼まれたとき、結局やり方が分からなくてローガンにやってもらったが、今ならできる。僕は小さい桶に水を入れ、何往復もし部屋の中の甕に水を入れた。


ローガンは大きな桶にこれでもかというくらい水を入れて、それを軽々と持ち上げていたが僕にはそれは無理だ。


甕半分くらいに水を注いだころ、


「食事にしよう」


とローガンは言った。


昨日の夕食の時は何にもしゃべらなかったが、今日はローガンといろんな話をした。

中でも魔法の話、それが最高だった。

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