第7話 決着

「ア……レ……?」


そう言ってフードの男は自分の腕から流れ落ちる黒い血液を不思議そうに眺めた。


何を考えているのか、男は動かないまま、ポタン、ポタンと血を滴らせる。


「い、今だ、逃げるぞ!」


俺はそうカーティスとドンに言い、足が斬られてしまったコリンをおぶり、全力で走った。


俺たちは物陰に滑り込む。時間はこれで、十分に稼げているはずだ。


コリン達はどうなったかって?


勇敢な街医者近くまで来ていてくれたので、命は助かった。


でももう冒険者の仕事はできなかったよ。


医者に彼らをたくし、俺はフードの男に目をやった。


すると男はぶつぶつと何かつぶやきながら体をだらんとしており、その周りを黒い砂が嵐のように飛び交っていた。


あれでは男に近づくことすらできない。


あいつの方はと思って見てみると。なんということだ、あいつはこの戦闘の中、目をつぶって座っていたんだ!


初めて見る座り方だった。


膝を折りたたみ、脛を地面につける。


後で真似して俺もやってみたが、足が痺れちまって耐えられない。


あいつはそのままスーッと息を大きく吸うとゆっくりと立ち上がった。


いや、ゆっくりってのは違うかもしれない。あいつの一連の動きは一瞬だったんだ。だがなんと言うか、やつの動きがスローモーションみたいに……美しく、落ち着いた、ゆったりとしたものに見えたんだよ。


あいつのロングソードは何故か鞘に収まっており。左手で鞘を、右手で柄を握り前傾姿勢で構えている。


俺も冒険者の構えをいくつか見たことがあるが、あいつと同じ構え方をする奴は後にも先に見たことはない。


フードの男も異様な構えをするあいつに気が付いたようだ。


「何シヨウト無駄ダヨ。モウ誰モチカヨラセナイ」


小さな竜巻みたいに、黒い砂は轟音をたて男の周りをグルグルと廻っている。近寄れるはずがない。


攻撃力だって、半端じゃない。男が通った場所にあったブロックが、砂の竜巻に巻き込まれ一瞬で粉々になる。


「バイバイ、継グモノ」


フードの男はそう言うと、そのままもの凄いスピードであいつに向かっていた。


アイツはカッと目を見開き、その一太刀を放った!


勝負が決した瞬間は一秒もなかった。他の奴は何も見えなかったと言っていたが、俺にはしっかりとその瞬間が見えていた。


「シィィィィィィィン」


と甲高い音を立てて、あいつのロングソードが鞘を高速で走った。


剣は美しい扇の光を生み出し、黒い砂嵐を切り裂いた。


「ザンッ」


と言う音はもう全てが終わった後に聞こえた。間違いない、あいつの剣は音を置き去りにしたんだ。


フードの男は剣戟を受け、よろよろと力なく数歩歩いた後、ぐしゃりと崩れ落ちた。


剣の方にも相当の負担がかかったのだろう。ロングソードはその一撃で砕けてしまった。


突然の結末に、そこにいた者はすぐには事態を飲み込めなかった。


だが誰かがポツリと言った。


「や、や、やった……」


それを皮切りに戦った者達は皆歓声を上げた。


「やった!やったんだ!」


「うぅうぉぉぉぉぉぉぉ!」


冒険者たちは勝利したのだ。


あいつはというと、俺の方を見て笑っていたよ。


俺もあいつに向かって、ふっと、笑った。


その時だった……。


あいつの後ろから突如現れた黒い砂の刃が、無防備な背中から心臓を貫いた……。


……あいつは口から血を吐いてドシャリと地面に倒れこんだ。


「オズワルドォォォォォ!」


俺はその時初めて、あいつの名前を叫んだ。


あいつの下に駆け寄った。

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