第6話
ジャスナを守れる大人になるのだ。
僕が入隊を決めたのはいじめられッ子の僕を守ってくれたジャスナを守る強い男になるためだ。
それと──
「ケイトリン、ほんとに軍人になるの?」
僕の配属先が決まったその日、報せに行ったらジャスナは怪訝そうに首を傾げた。
未だに半信半疑という表情をしている。
「下の町のお店に奉公に出るんだと思ってた」
「僕、頭悪いから商家の奉公は無理だよ」
知ってるでしょ、と僕が笑うとジャスナは顔を歪めていた。
「おじさん達にも報せとかなきゃと思って。僕いろいろお世話になったから」
「お世話って、そんな」
母が村を出て、父もほとんど家に帰らなくなった。近場の砦以外にもいろんな、特に遠方への運搬の仕事を選んで就くようになったせいだ。
兄のことは祖母が見ていたが、畑仕事も抱えて幼すぎる僕の世話まで手が回らず放ったらかしに近かったらしい。見かねた村の大人達が交代で面倒を見てくれていた。なかでもジャスナの家族は、ことにおばあちゃんは自分の孫と同じに可愛がってくれた。
そのおばあちゃんの口癖が、僕に入隊を決意させた理由のひとつだ。
もしかしたらジャスナは不機嫌なんじゃないか?
僕がそう思ったのは、僕達の新居を目にしたジャスナが叫んだ時だ。
「王都の
かすれた大声で叫んだジャスナは、大股で新居の扉に近づくと、ドアノブを掴んでしばらくガチャガチャ回そうと試みた後、力一杯に引き千切ったのだ。
勢い余って背中から倒れこむジャスナに駆け寄って抱き止める。
ジャスナは心ここにあらず、といった風情で僕を見ても無言だった。
ともあれ怪我はないようでホッと胸を撫で下ろす。
紹介してくれた不動産屋いわく築百年をゆうに越す古民家だ。空き家になって長いと言っていたから扉の木材も随分傷んでいたのだろう。
それに家の周囲。
雑木林の中の家と聞いてはいたが、僕の背より高い叢は問題だ。
多分ジャスナもびっくりしただろう。そのせいでさっきみたいな突飛な行動に出たのだ。
そう言うと、不動産屋は下草刈りの際は近くの村から人を雇い入れることになると言った。会社はリンサの街にあるので、社員が作業に来るのは無理なのだと。敷地内を綺麗に刈り取り、出た塵の処理も併せてその村に任せることになるので費用負担が生じるということだった。
「申し訳ありません」
「仕方ないですね。そちらの見積りもお願いします」
これだけの広さ、僕とジャスナでは手に余る。
僕も当分こちらで生活できないし。
そのやり取りを、ジャスナは無表情で聞いている。
怒っているのか?
ずっと無口なのは疲れているからだよね?
確かに思いもかけない長旅になった。
予約していた夕食は日を変えればいいとしても。
何の準備もなく、結果として七日間も費やすことになったけど。
それは馬車があんなに遅いと知らなかったからだし、街ごとに城門の開閉時間が決められていて厳格に守られていると知らなかったからだし、そもそもこの場所──僕達の新居がこんなに遠くとは知らなかったからなんだ。
でも女の人はサプライズが好きだと軍の先輩も言っていたし、問題ないはず……なんだけど。
ねぇジャスナ、きみ怒ってないよね。
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