第33話 ランダムエンカウントの強キャラの待ち伏せは反則だよね?


「これは……まさか、私達を待ち伏せしているのか?」


 巨大なワームを目にして、揚羽が息を呑む。

 ワームは悠然と長い身体でとぐろを巻いて、貧乏ゆすりでもするかのように尻尾で地面を叩いている。

 琥珀達の存在には気がついてないようだが、ワームに気が疲れることなく『門』を使用するのは不可能だろう。


「……標的が私達とは限らないわ。だけど、どちらにしても進めないとは変わらないわね」


 甘井が渋面になって言う。


 予想外の事態である。

 ワームは遺跡の形をした二つの『門』を囲むようにして、巨体を横たわらせていた。

 標的が琥珀らなのか、他の誰かなのかはわからない。

 しかし、どちらにしてもワームをどうにかしない限り、『門』を使用できないのは間違いなかった。


「しまった……これは予想外ですね。どうして、こんなことに……」


 シャーロットが苦渋の顔で拳を握りしめた。

 他のメンバーにも絶望的な空気が広がっている。

 よりにもよって、どうして『門』がある場所でボスモンスターが待ち伏せしているのだ。


「キュウ……」


(まさか……僕達が、ダンジョンを探索している人間達が必ず『門』にやって来ることをわかっているのか?)


 モンスターにそんな知恵があるというのだろうか。

 ペンギンの琥珀が普通にものを考えられているのだから、あり得なくもないことだが。


(もしも次の階層に進むのであれば、五人全員で『転移門』に入らないといけない。そうでなければ、次回以降のスタート地点が更新されない)


『脱出門』からダンジョンの外に出た場合、あるいは死に戻りした場合、同じように草原エリアからスタートすることになる。

 次の階層に行けばワームから逃れることができるが、進めなければ、このままワームに付きまとわれる可能性があった。


(仮に死に戻りをしたとしても意味はない。ワームをあの場からどかさない限り、攻略は不可能ということ……)


「あれ? これって詰んでね?」


 琥珀と同じことに気がついたようだ。

 柊木が思いきり顔をしかめる。

 ワームをどうにかしない限り、成果を持ち帰ることも、先に進むこともできない。

 死に戻っても意味がない。

 完全な詰みである。前も後ろも道が塞がれている。


「あり得ない……こんなことは初めてです……」


「シャーロット教官、これはそんなに珍しい事態なんだろうか?」


「当然です。そもそも、第一階層にワームがいること自体が稀なのです。いったい、このダンジョンで何が起こっているというのですか?」


 シャーロットの反応を見る限り、やはりこれは異常事態であるらしい。


「とにかく、どうするべきか考えましょう。アレをどかす方法はないかしら?」


 甘井が口元に手を当てて、眉をひそめる。

 五人と一匹はワームから距離を取ったまま、作戦会議をすることになった。


「私達は先に進まなければいけないわけだけど……単刀直入に訊くわね。みんな、ワームを倒せると思う?」


「むり」


「無理だ」


「無理じゃね?」


 ヘリヤ、揚羽、柊木が同時に断言する。

 シャーロットは無言だが、ゆっくりと首を振る。


「ワームは第三階層以降に出現する強力な魔物です。今の皆では歯が立たないでしょう」


「つまり、まともに戦うというのは避けた方が良いわね。だったら、どうすれば良いかしら?」


「……ワームをどこかに動かす。できるかどうかはわからないが」


 揚羽が眉尻を下げて、苦々しく答える。


「奴を引き付けるとなれば、囮になる人間が必要だ……正直、ゾッとする話だけどな」


 ワームがダンジョンを探索に来た冒険者を待ち構えているのなら、誰かが囮になれば引き剥がせるかもしれない。

 次の階層に進むためには、五人全員が転移門に入る必要がある。一人でも欠けてはいけない。

 周囲には代わりに囮になってくれるようなモンスターはいない。

 となれば……必然的に、視線が一点に集中する。


(僕がやるしかないってことか……)


「キュウ……」


 一同からの視線を受けて、この中で唯一、ノーリスクで死ねる存在……召喚獣の琥珀は溜息混じりに鳴き声を漏らしたのである。

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