第4話:二度目のチャーハン

 私が思い出す母の手料理はチャーハン。


 油は少なく、パラパラと言うより水分が飛んで硬くなったものだ。

 それがのチャーハン。


 火を通せば鮮度も関係なく美味しく食べることができる。

 母の知恵だ。豪華な日はピーマンが入っていた。

 

 ある日、スーパーの特売で赤と黄色のパプリカを見つけた時は大きな発見をしたかのように母に教えたものだ。


 母はニヤリと笑うと、ピーマンの凄さを教えてあげると言う。


 その日の夜出てきた彩り豊かなチャーハンは水っぽく、私の好きな味ではなかった。

 しかし、残すわけにはいかないため黙々と口にスプーンを運ぶ私をみて母は可笑しそうに目を細めていた。


 二度目のチャーハンはそんなことなかったのが救いだ。

 

 周りの女の子は可愛い小さいお弁当だったり、サンドイッチやおにぎりだったが、私は女の子にしては大きいお弁当を学校に持っていってた。

 お弁当といってもピンクの蓋の厚いタッパー。


 それを私は箸を使って食べる。スプーンだとプラスチックに傷がつきやすいのだとか。


 母は私によく明るい子になりなさいと言っていた。そうすれば周りから好かれるのだとか。

 母は私によく見た目をよくしなさいと言っていた。そうすればモテるのだとか。


 ──実際その通りになった。

 そのおかげで私は劣等感を持たずに生活できた。


 母はカバンと靴はいいものを綺麗に使いなさいと言っていた。

 中学生の時、タワシを擦る力強い音に目が覚めた。その時目にした雨の中泥で汚れた私の靴を夜中に一生懸命に洗っていた母の姿を覚えている。


 プレゼントにもらったスニーカーは今もとってある。


 私はバイトを始め、友達と過ごす時間が多くなっていた。

 「花の高校生」と言ったものだが、とても楽しく明るかった。


 どんどん綺麗になっていく私を嬉しそうに見つめる母はどんな気持ちだったのだろうか。

 重く感じるフライパンを持つ母の手はもう私よりも小さくなっていた。


 もうボロボロのトートバックを持って買い物に行く母。

 少し形の歪なカーネーションの刺繍の入ったそのバック。


 少し恥ずかしいから違うの買ってあげるよと言っても、いっぱいものが入るからと言って譲らなかった。










 もしかすると、私は母と出歩くのが少し恥ずかしくなっていたのかもしれない。

 もう子供じゃないんだから。そんな気持ちがあったのかもしれない。



 今日はトートバックをあげてからちょうど七年経った日。

 私は母になんて言えばいいのだろうか。母は私になんて言ってくれるのだろうか。


 今度は恥ずかしがらずに言えるだろうか。


「次生まれる時もあなたの子供がいいな」


 上る煙でよく見えなかったが顔をあげた母はどこか嬉しそうにしていた。


 私は今、やっと本当の気持ちを吐き出した。

 

 

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儚く、華やかに 四喜 慶 @yoshipiro

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