序ノ廻ノ転 後ノ編

 夜も更けて……大聖堂地下留置所。

 ここでは逮捕された人間が一時的に収容される。しかし、逮捕された人間はまだ犯罪者だというわけではない。ここに収容されるのは、あくまで容疑をかけられた人間である。

 レク達に身柄を拘束され、この場所に連行された「ローナ・ヴァルター」は、静かに時が過ぎるのを待っていた。地下なので、ボロのランタンの光が無ければずっと真っ暗だ。だが、人は光を求めるもの。光さえあれば、なんとなく安心できるものだ。ローナも、そのランタンの光源のおかげで普段通りに、静かで穏やかな心持ちでいられたのであった。

 ローナがランタンの火がゆらゆら燃えているのを眺めていると、鉄格子の外から何か足音が近づいてくるのに気が付く。


「ローナ・ヴァルター」


 名前を呼ぶ声に、顔だけそちらに向けるローナ。鉄格子の外には、教会騎士のローブを羽織った人物と、他二人の教会騎士が立っていたのだ。


の「マトゥー・カラヴァジオ」だ」

「スクレ・ドゥ・ロワ……馬鹿な、存在していたのか?」


 スクレ・ドゥ・ロワ。かつて存在していた、「王の秘密機関」である。だが、当時の国王であるルイ15世の死去後、解体されたのだが……。


「出ろ、移送だ」


 ローナの疑問に答えることなく、マトゥーは背後の教会騎士に命じ、ローナを連れ出す。その際、ローナは黒いアイマスクを装着させられ、視界が奪われた。

 二人の教会騎士に連れられ、ローナとマトゥー達は、黒く分厚い布に覆われた蒸気自動車に乗り込んだ。自動車が動き出し、夜のフローレイズを駆け抜ける。外の様子が見えないので、どこに向かっているのか、どこに連れていかれるのか……わかるはずもなく。ローナは思わずそこにいるであろうマトゥーに尋ねた。


「こんな時間にどこへいくのです?」

「占い師なら占ってみろよ。未来、見えんだろ?」


 マトゥーがローナのアイマスクを取ってやり、彼女の目を見据えながらそう笑う。訝しげにマトゥーを睨んだローナは、マトゥーの瞳を見つめる。


「あの、指で枠を作らないとよく見えないんです」

「あ、そう。じゃあ、拘束解いてあげる」


 マトゥーはそう言って、ローナの手首に縛っていたロープを外すと、ローナは早速両手の指で枠を作り、マトゥーに向けた。


「……」


 ローナの顔色がみるみる内に青ざめていき、ローナは震える唇から、声を絞り出した。



「……わ、私を、殺すのですか!?」


 ローナの問いに、マトゥーは「うふふ」と満面の笑みを見せる。


「だったら、どうする?」


 マトゥーはそれだけ言うと、ローナの目をアイマスクで隠した。

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