序ノ廻ノ転 前ノ編

「ふん、明日もニンニク臭くしてやる……! ぐふふ」


 ぼくは「寧幸むしろしあわせ」に訪れて、ギョーザとラメーンを注文し、夜なのでさらに「」を注文して次々に口に入れる。相変わらずこのお店のラメーンにギョーザはうまい。ホントうまい。どんどん入っちゃいますよ。


「うんまぁ~! 親父さん、追加。茹で5、焼き5、ニンニクマシマシで」


 ぼくの注文に親父さんは元気よく返事をしてくれます。


「はいよ~。財布しゃーふ忘れてなぁい?」

「もろちんですよ、こうやって……」


 親父さん、流石に釘を刺してきましたね。ですが無問題もーまんたい。こうやって財布を――ってあれ?

 ぼくはバッグの中身を探し回りますが、見当たりません。財布。確かに持ってきたハズなのに!? ……まてよ、さっき橋ですれ違った銀髪のナイスバデーなお姉さん……あいつが!?


「また落とした、かも……」

「今度こそ逮捕しちまうぞ?」

「ローブのフード、その中にあるよ」


 突然店に入ってくるなり、そんな声が財布を探し回るぼくの耳に入ります。ぼくは入り口の方を見やると、白いファーがついた、金の刺繍が入ったジャケットを羽織る男が立っていました。ぼくは「うげぇ」と声を出します。


「……「左利き」」

「ちゃんと名前呼びなさい。俺は「マルクス・セントラ」お兄さんだぞ」

「何の用ですか」


 ぼくが警戒しながら彼を睨みますと、左利きが近づいてきて、僕のフードの中にあった財布を取り出して手渡してきます。


「ほら」

「なんスか、これで恩でも売ったつもりですか」

「そんなわけねーよ」


 左利きはそう笑いながら、ぼくの向かい側へ座り込みます。……ってか、普通に座ってんじゃないですよ!


「俺、この辺で塾講師やってんだよ。まだ大学生だしね。あ、「名古屋あんかけチャーハンセット」一つ」

「はいな」


 左利きが注文を出し、ナンシーさんが返事をします。つーか、席なんか他にもあるっつーの。


「ほーん。じゃあ別の店行って下さい。目障りです」

「いーじゃん、減るもんじゃないし」


 ぼくは机をバンッと叩き、彼をまっすぐ見据えた。


「ぼく、あなたを許した訳じゃありませんから。早く真実だけを語り、自首してくださいよ。「」も、それを望んでいますよきっと」

「……マリアの事は残念に思っている。だけど、俺じゃないよ。あの時の事は……」

¡Cállate!黙れ!


 ぼくがそう言うと、険悪なムードだというのに、親父さんがテーブルまで追加のギョーザを運んできてくれました。


「早っ! ちゃんと茹でてます?」

「他人の3、4びゃーは早ぁ動けるんだわ。親父だからってナメちゃいかん」


 親父さんがそう笑いながら厨房へ戻っていく。すると、ナンシーさんが左利きに向かって満面の笑みを見せてきました。


「¿Quiere estar asegurado?保険に入りたいか?

No lo haré.俺はやらないよ

Es una pena.残念でした


 左利きがそう断り、ぼくはギョーザを頬張りながらぷぷっと笑います。ナンシーさんはあんぐりと口を開けてこっちを見てきました。なんだか何か言いたげな顔ですね。そう思いながらギョーザを飲み込むと、左利きがぼくの方を見て口を開きます。


「君は何か勘違いしているよ。俺はマリアさんが襲われるのを助けようとしたんだ。……本当に残念に思ってるし、いたたまれない気持ちでいっぱいだよ」


 左利きが申し訳なさそうにしながら、ぼくのギョーザをハシでひょいとさらい、口の中に入れてしまいました。


「あぁー! 食うなよ左利き!」


 ぼくの取り分がなくなっちゃうでしょうが!


「そんな薄っぺらい言葉はぼくに言わないでくださいよ。マリアさんに言えばいいでしょ!」


 ぼくがため息をつきながらそう言うと、左利きが首を振ります。


「彼女は今、眠っているだろう? 森の奥のお姫様みたいにさ」

「うっせぇ。ウザい、キモい」

「……」


 何ともウザいすまし顔。……こいつさえいなければ、マリアさんは……。

 と、ふと壁に掛けてあった時計に目をやります。時計の針は8時ちょうどを差していました。


「……時間ですね」

「なんの?」

「予言です」

「予言……?」


 ぼくはローブの中にしまっていた封筒の封を切り、中身の紙を取り出して広げる。左利きも覗き込んできました。……仕方ないので見せてあげましょう。紙にはこう書かれていました。


の人には、会えましたか? そんなにギョーザを食べていたら、明日もニンニク臭くなるわよ。気を付けてね>


 ……の人? ぼくは無意識に眉間にしわをよせていたと思います。

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