序ノ廻ノ承 了ノ編
さて。俺はこの街で評判のスイーツカフェまで来て、ワクワクしながらカップル用のクリームいちごミルクドリンクのクリームを、ストローで啜っていた。後ろめたさはある。なんせ、こっそり仕事抜け出してきちゃったから……。まあ、ガッちゃんも後で合流するって連絡きたし、それに最悪レク君とルカ君だけでも大丈夫でしょう。俺、もうアラフォーだから全然身体動かないしね。それに……今日は大好きなシオンちゃんとの待ち合わせ! まあ、妻との離婚はうまくいかないけど……。な、なんとかなるでしょう、うん!
「あ、シオンちゃん、こっちこっち!」
俺が手招きすると、シオンちゃんが近づいてきて、俺の目の前に座る。どこか不機嫌そうな顔だが、いつも通りかわいらしい顔だ。
「……えへへ、サボってきちゃった♥」
シオンちゃんはこちらに目もくれず、持ってきていたカバンの中身を漁っていた。
「うーん、意外だったよ。まさか、教会騎士になっていたなんて。就職したってきいてはいたけど、まさかねぇ……」
俺がそう言った後、シオンちゃんが俺に顔を近づけてくる。
「で、いつ結婚するの? 私達」
その言葉に俺は思わず変なところにクリームが入ってしまい、ゲホゲホと咳き込んだ。涙で目の前がぼやけてくる……!
「ゲホッ、ゲホッ……いや、あのね……」
しばらくして落ち着くと、俺はシオンちゃんに向き直った。
「り、離婚が進まないのよ……調停中でね。アハハ……」
「アハハじゃねえから」
シオンちゃんは機嫌を損ね、頬杖をついてそっぽを向いてしまう。
俺とシオンちゃんは現在、不倫関係にある。シオンちゃんはというと、それも合意でこうやってコソコソ付き合っているわけなんだけど。それをだいぶ長く続けてるもんだから、シオンちゃんも業を煮やしているわけだ。いや……わかるのよ。俺も妻との離婚に向けて色々やってきているけど、妻はというとそれを全面的に拒否。離婚届も破り捨てられるし、穏便に済ませようと弁護士も立てて、離婚調停に入ってるんだけど……。妻も弁護士なんだよね。しかも、凄腕の。だから、全くの平行線で長引いて現在まで離婚ができていないというわけだ。いやぁ、モテる男はつらいよね。……なんて。
「シオンちゃん、ご飯は?」
俺は汗をダラダラ流しながら、精いっぱい笑って見せて、そう聞いてみる。シオンちゃんは髪の毛をクルクルと巻き付かせながら弄り始めた。
「いらなぁい。門限あるもん」
「そ、そう。お嬢様だもんねぇ……アハハ」
俺が力なく笑った。シオンちゃんの御実家は伯爵家らしく、門限に厳しいらしい。まあ、そうでなくても、若いお嬢さんが一人でどこかに出かけてるなんて、親からすれば心配になるのは理解できるし、俺も心配になっちゃう。
そう思いながら、俺が今まさにドリンクを飲もうとした瞬間、シオンちゃんがそれを奪い取って、ふくれっ面でクリームを飲んでいた。
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