序ノ廻ノ承 中ノ編
2時間後。
僕達はパーティー会場であるラプソン領主の居城に来ていた。残念ながら護衛は僕達、
「あれでも忙しいんだよ、一応……俺達には言えない裏の上の上の上の……レベルのお偉いさんらしいから」
「なんですかそれ、胡散臭いですね」
「でしょお。俺もそう思うのよねぇ」
ヨハンソンさんがそう言いながら軽快に階段を上っていく。僕もそれについていく。後ろの方で何かが倒れる音と鈍い音がした。
「おぐぅ」
濁った声も聞こえたんで後ろを見ると、レク君がつまづいていました。しかも息を切らしていた。反射的に近づいて、レク君に寄り添う。
「だ、大丈夫?」
僕の質問に、ハァハァと肩で息をしながらレク君は僕を見つめてきた。光の無い目がこっちを捉えてくる。
「ぼく……もやしなんで。んはぁ……体力には自信ありません……はぁ……はぁ……」
この子、毎日ニンニク入りのギョーザとかラーメン食べてる割に体力ないのか……一体この子の摂取した膨大なカロリーはどこに吸収されて消えているのだろうか。僕がそう言った意図で彼を見ていると、彼の背後から何か絵の様な巨大なパネルが運び込まれていた。作業員さん達がせっせと運び込んでいるみたいだ。
「ああ、あれ。閣下の巨大な肖像画ですよ。独身なんで、でっかい顔パネルになります」
「お偉いさんの考えはよくわからないね。パネルをホールに飾って何がしたいんでしょうか」
「自分の権力を誇示する為ですよ。あと、もしかしたあお嫁さん候補を探してるかもしれませんね。んふっ、ウケる」
レク君がそう言うと、立ち上がった。
「元気百倍、エネルギーチャージ満点です。行きましょう、童顔野郎」
「……」
腹立つな、絶妙に。と、思いつつ彼についていく。平常心平常心、このくらいのジャブで僕は動じないぞ……!
―――
ミゲルさんの案内で会場についた僕達は、今回警備の指揮を執るヨハンソンさんの指示を聞くべく、整列する。他の軍事会社の黒服さんとかも混じってるね。
「当日の招待客の出入りはあの入り口一つだけだ。他の入り口は封鎖し、出入りを制限する」
ヨハンソンさんが普段の頼りない感じとは打って変わって、キリッとした表情で皆に指示を出す姿は、素直にカッコイイと感じた。
僕は改めて会場を見回す。パーティーの準備に皆さんが、せっせとせわしなく動き回り、ホールはきらびやかに飾られていく。ギラギラと、室内の照明を反射しているね。このホールはとても広いので、数百人という人数が収容されても多少余裕があるかもしれませんね。
「パリの民間軍事会社「ヴァント・ネル」や他社の警備に近隣施設や城を巡回させていますが、大丈夫でしょうか?」
ミゲルさんは少々心配そうな様子でヨハンソンさんに聞く。確かに万全に万全を期しているんだけど、「暗殺」というのはその隙間すら入り込んで、確実に喉元を狙ってくる。それに、なんだか軍事会社の皆さんはなんとなく気が抜けているような感じがするなあ。ヨハンソンさんは大きく息を吸い――
「気を抜くな、敵の姿が視認できない今、警戒を怠るなよ。いいな!」
「……ハッ」
その場にいる全員が規律良く大きく返事する。僕達もだ。
「では仕事にとりかかれ、解散!」
ヨハンソンさんの指示で、黒服の皆さんは散り散りになり、持ち場へ戻っていった。ヨハンソンさんの事、見直したかも。さて、僕らも――
「あら、ミゲル先生ぇ!? ご部沙汰しておりますわぁ!」
突如女性の黄色い声が近づいてきて、綺麗な赤髪の女性がミゲルさんに向かって会釈していた。……綺麗な人だ、貴族の方みたいだね。
「あ、ああ……えぇ、マリエリさん?」
「はい、昔お世話になった、マリエリですわ♪」
「随分お元気にされているようですね」
「ええ、おかげさまで……その節は誠にありがとうございました」
マリエリさんがにこやかに微笑み、手元のファイルを開いた。
「あ、こちら誕生パーティー会場の見取り図ですけど、どなたに?」
「では、私がお預かりします。どうもありがとうございます」
ミゲルさんがファイルを受け取ると、マリエリさんはニコニコ微笑みながらミゲルさんをじーっと見ていた。なんかいい雰囲気なんでしょうか、これは?
「じゃ、失礼いたします♪」
と、マリエリさんがそう言って、小走りでホールを出ていっちゃった。それを尻目にミゲルさんはヨハンソンさんに、ファイルを手渡している。
「こちらが見取り図です、そしてこちらが招待客のリストです」
ページを捲りながらそう説明してくれた。
「この中に、閣下に恨みを抱く者がいたりしませんか?」
「いや……まさか」
ミゲルさんはそう言うけど、僕は昨日読んでいた閣下についての資料や新聞を調べたところ、人気を博している一方で、汚いやり方でのし上がってきた過去や、普段のかなりの高圧的な態度は、やはり嫌われているようで。それに、地位と権力を狙っての暗殺というのも捨てきれないや。とにかく、恨みを抱かれないと言い切れない。
「ちなみに」
会場を見て回っていたレク君が、いつの間にかミゲルさんの近くにいて、口を開く。
「ヴァルター先生の予言では、「毒殺」されるらしいですよ」
それを聞いたミゲルさんは目を見開いて、声を上げた。
「ど、毒殺!?」
「ぶっ、タダできいちゃいました。ククク……」
何が面白いのか、レク君は例の不気味な作り笑いで、くつくつ笑っている。
「では、食事と飲料の入念なチェックをしなければなりませんね」
「現代技術では、毒味と検査薬での分析等が限界ですが、当日は出される食事は全てそれでチェックしますので、ひとまずそれで一安心ですかね」
レク君がそう言うので、僕は首を振って待ったをかけた。
「レク君、「毒殺」という言葉に惑わされてはいけません。毒殺だけで振り回されていたら、警備の本質を見失いますよ」
「……一理ありますね。肝に銘じましょう」
レク君が素直にそう答えると、ヨハンソンさんは満足げにこっちを見て、微笑んでいた。なんというか、生あたたかい目とはあの目の事かも。
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