『下宿のおばさんに』 中の下の中


 すると、そこは空っぽで、電気も点いておらず、ひたすら真っ暗です。


 『ありえない。いま、にぎやかに話していたのに。』


 ここでの出来事を、真面目に受け取ってはならない。


 さっき、そうは、思ったのです。


 そもそも、下宿は、すでに『ない』のですから。


 しかし、ぼくは、おばさんに、お詫びをしたかったのです。


 だから、いまさら、ここに来たのではないか?


 卒業して以来、きちんと、挨拶にもこないまま、そのチャンスはあったのに、自分のトラブルや、ある意味の成功にかまけてしまって、為すべきことをきちんとしないまま、漫然と過ごした。


 いつしか、40年以上が、過ぎてしまった。


 身体を壊し、仕事もやめざるを得なくなったし、両親もいなくなっていて、さらに、よくない病気だと分かり、ぼくは、後始末をやらなければならないと、感じていました。


 それは、あきらかに、罪だったのです。


 しかし、罪であることさえ、認識できずにいたわけなのです。


 なぜなら、実際に尋ねてきたこともあったし、そのときは、お留守のようだったけれど、なぜ、もう一回、時間をおいて、寄らなかったのか。


 しかも、やりかたは、色々あったはずです。


 お手紙を置いて行くこともできた。


 お菓子屋の奥さんに、伝言することもできた。すると、いろいろ、情報もあったろうに。まだ、間に合ったのです。


 おばさんは、一時確かに下宿は閉めて、親戚宅に移っていましたが、あまり経たずにもどってきていたことは、後からお菓子屋の奥さんに聴いていました。


 だから、あのときは、おばさんは、下宿に帰っていたのです。




 『やっと、判ってきたか。』


 ふと、背後から、あの、女の人の声がしました。


 振り向くと、そこには、見知らぬ男性がふたり、立っていたのです。



     🧍‍♂️ 🧍


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る