第3話
あの後、風評被害を避けるため、話し合った結果、まずはお試しでパーティーを組むとの結論に落ち着いた。
エレミアは最初こそ不満げだったが、最終的には目にもの見せてあげますと鼻息荒く提案を受け入れた。
同性のドヤ顔とは違い、可愛らしい少女のドヤ顔はほっこりする。美少女は得である。
クエストは駆け出しのエレミアを考慮してゴブリン狩りとなった。
魔王城の近くなどには相当強い亜種がいるらしいが、ゴブリンは基本的に弱く、駆け出し冒険者の多くが最初のターゲットとする。
だが、いくら弱いとはいえ魔物は魔物。やられる冒険者だって少なからずいる。
ゴブリンは弱い故、集団行動を取るため、考えなしに突っ込んでしまうと囲まれてしまうのだ。
エレミアはウィザードなため、むしろ集団戦に強いので心配の必要はないが。
今回、俺が見るポイントは結果ではなく内容である。
出会ってまだ間もないが人としてはエレミアは好感が持てる。散々、引っ張っておいてなんだが、宿屋に戻り、ゆっくりと考えてみると特段断る理由はない。
体形こそ幼いので対象外だが、外見は可愛らしく、ノリも良い。少し抜けているところもあるため、守ってあげたい気持ちもある。
が、そこは一応勇者。旅に危険はつきものではあるが、勇者のそれは一般の冒険者より大変だとされる。
正直な話、俺は強くない。むしろ、弱い部類だ。エレミアを守る余裕はおそらくない。
もちろん、その辺りの説明はしたのだが、エレミアは自分の力に相当自信があるらしく、説得はできなかった。
以上の事から、お試しとはしているが、俺の中では想定外の事でもない限り断るつもりだ。
「ふっふっふ、私の力ちゃんと見ててくださいね」
「わかってるわかってる。でも、俺のお眼鏡に叶わなかった時はわかってるよな」
「その時はおとなしく諦めます。まあ、そんなことにはなりませんが」
隣を歩くエレミアが自信満々に言ってくる。
「昨日から思ってたけど、やけに自信満々だよな。そんなに潜在魔力が高かったりするのか?」
「まあまあ、それは見てからのお楽しみですよ」
いくらゴブリン討伐とは言え、一応は実践なのだが、エレミアの足取りはまるで散歩にでも行くかの様に軽やかだ。
「なあ、エレミアはクエストを受けたことあるのか?」
「ないですよ。昨日登録したばかりですし」
「おいおい、駆け出しでもなかったのかよ……」
「大丈夫大丈夫。戦闘には自信ありますから」
無知ゆえの自然体なのだろうか。
大体、初の実戦を迎える冒険者は緊張しっぱなしなものだが。よほどの大物なのか、もしくは馬鹿なのか。
まあ、ゴブリン相手なら何かあったら助けてあげられる。多少怪我はしてしまうかもしれないが、それも経験だ。
「そういえば、何でウォルは弓を持ってるんですか」
「ああ、遠距離の手段が乏しくてな。万が一、助けが必要になったら剣よりこっちの方が速いし」
「勇者と言えば剣のイメージなんで意外です」
「まあ、うちの国は勇者の歴史が乏しいからな。聖剣とか何もなくてさ。そもそも、現国王は勇者自体適当に選んでるし」
「え、でも、勇者には特権が与えられるから任命は慎重にされるものだと」
「ほとんどの国はそうだよ。だからこそ、うちの国の勇者は評判が悪い。ほら、受付のお姉さんとか態度冷たかっただろ」
「言われてみれば冷たかったですね」
「特権だけはいっちょまえの勇者の面汚しってのが世間の評価だ」
「そうなんですか。初めて知りました」
そうなんだ、と呟くエレミアを横目に、俺は少し驚いていた。
特に気にした様子がないからだ。
「だから、ウォルが声をかけても反応が悪かったんですね」
「なんだ見てたのか」
「かわるがわる女の人に声をかけていましたので、タイミングが中々つかめなくて」
「なるほどな。……あのさ、エレミアは良いのか?」
「何がです?」
「いや、まあ、勇者って言ってもそんな感じの勇者だけど」
「それは今までの勇者の話であってウォルの話ではないですし。昨日も言いましたけど、私は人を見る眼には自信がありますので。何かあっても自分の責任です」
「う、うーん、正直なんでそんな高評価をもらえているのか不思議なんだけど」
「悪い人ではないって程度ですよ。評価はしてますが、そこまで高評価ではありません」
それはそれで複雑な気持ちになるからややこしい。
「ギルドにいた人だとウォルが一番単純そうだったので、あと勇者ですし」
「単純そうって……。あと勇者を付属物みたいにしないでくれ。一応、大事なことだからな」
「一応ってウォルが言っちゃいますか」
目的が魔王退治ではなく嫁探しだからな。言わないけど。言ったら幻滅されそうだし。
「その程度で良いんだよ。リラックスしてことにあたるのが一番。っと、ついたな」
「あ、ゴブリン」
指定された場所へとつくと、早速ゴブリンが湧き出てきた。
距離があるためあちらは気づいていないようで、持っているこん棒を振り回しながらキーキーキーと騒いでいる。
魔法の射程範囲内だし、絶好のシチュエーションだ。
「それじゃあ、お手並み拝見といこうか」
「しっかり見ててくださいね」
ニコッと花が咲いた様に笑顔を浮かべ、二、三歩前に移動し杖を掲げる。
すると、エレミアの全身が青い魔力で包まれ……包まれ?
あれ? 足元に魔法陣が現れるんじゃなかったっけ。
『ブースト』
身体強化魔法――ブースト――の名が耳に届いたと同時にエレミアの姿が掻き消える。
いきなりの事に脳がフリーズすると共に、ゴブリンの悲鳴が響く。
慌ててそちらの方を見ると、三匹のゴブリンたちは皆上半身を吹き飛ばされ、下半身だけが残っていた。
その傍らにたたずむエレミアが俺の視線に気づくと、再びニコッと微笑んだ。
「どうでしたか?」
「お、おう」
ゆっくりと歩いて戻ってきたエレミアの問いに思わず声が裏返る。
無理もない。凄まじい光景を目の当たりにしたばかりなのだから。
「えっと、ちなみに今は何をしたのか聞いても」
「ブーストをかけて、殴り飛ばしました」
相棒であるミスリルでコーティングされた杖を胸辺りに持ち上げながら教えてくれる。
撲殺! まさかの撲殺天使だった!
「あの、魔法で遠距離攻撃をしようとかは」
「あ、言い忘れてました。私、身体強化魔法しか使えないんです」
……ん?
舌を出してテヘッと言わんばかりに、軽く自分の頭をごつくエレミア。
「……攻撃魔法は使えないってこと?」
「はい。でも、身体強化魔法は得意ですよ」
「あ、うん。それは見てたからわかるけど」
身体強化魔法、初めて生でみたため詳しくは知らないが、強化魔法は潜在魔力に左右されやすい。
となると、凄まじい強化を可能とする彼女の潜在魔力は……。
「もしかして、エレミアって凄い人、だったりする?」
「ただの駆け出しのウィザードですよ」
どう考えてもただのではないんだけど。
「それで、私の力はわかってもらえたと思うのですが、どうですか?」
「あ、ああ。うん、その、凄いのは凄いんだけど、ウィザードでは「ウィザードです」だって攻撃魔法……」
「漆黒の帽子にマント、武器は杖。どこからどう見てもウィザードじゃないですか」
見た目ではなく、中身の話をしてるんですよ。
などと言えるはずもなく、力なくそうだね、と同意するしかない。
「ウォルが納得できないと言うなら、もうこれしか……」
下を向き、ボソッと恐ろしいことを呟くロリッ子。いや、わざと聞こえる音量で言ったな。
高速の一撃だったためか、血が全く付着していない杖がキラリと光る。まるで、生贄を欲しているように。
「あ、その、これからよろしくお願いします……」
「こちらこそよろしくお願いします!」
差し出した右手を掴む彼女の手はとても柔らかかった。
が、帯びた魔力の密度に冷や汗が流れる。
――母さん、父さん、何だか凄い子と出会ってしまったけど、俺、頑張るよ。
勇者ウォル・アクランド絶賛まともなウィザード募集中……。
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