第五日

異世界転生して、勇者になったお調子者。


案の定、その世界の秩序なんて、おかまいなしに、好き放題で暴れまわった。

時に希少動物を。あるいは歴史的建造物を。

または、姫と王子の秘密の恋を。その他諸々、数多のそれらを壊してまわって、威張って今日も高笑い。

勇者を喚んだ国一番の魔法使いも、勇者を喚ばせた賢君も、彼の行いに心を痛めて、それでもみんなして、ただ口を噤むいで、見ないふり。


それもそのはず、なんといってもこのお方。千年に一度しか現れない、とびきり強い力を持った、伝説の勇者さまなのだから。

王家に伝わる予言の書にも、きっちりかっちり、このように。記されているのだから、間違いない。

「勇者が魔王と対峙する時、必ずやこの世界に平和が訪れるであろう」

その姿を見た者はないが、世にも恐ろしい魔王が、そのうちきっと現れる。

それまでのこれは辛抱だと、勇者の蛮行に耐えること数年。


そろそろ勇者が、世界をひとつ。滅ぼすあたりで、ついに魔王が現れた。

王家に伝わる書によれば、これまた千年に一度だけ現れるという、とびきり強い力を持った、伝説の魔王と記されている。


ついに二人は対峙した。

みんなが見守るその中で、魔王が先に動きを見せる。

「よく来た、勇者よ。この世界へ。お前の力は強すぎて、とても私では倒せない。けれども、それはそれとして。お前のような勇者など、殺す価値さえ見あたらない」

そうして、魔王が呪文を唱えて、勇者をどこかの異世界へ。転生させて、自分もどこかへ消えてった。

それから世界は、王家に伝わる予言書どおり。すっかり平和が訪れた。

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