第2話 オムライス


「あ、晩御飯食べてく?」

 ソファに寝っ転がって本を読んでいると、台所からそんな声が聞こえてきた。

 もうそんな時間かと、窓の外を見ると陽が落ちかけていた。

 今日は家に家族がいない日なので、大丈夫だろう。

「えっと、はい。食べます」

「作ったげよう」

 そういっていそいそと台所の奥へ消えていったので、僕は台所を覗きに行くことにした。

 この家は、古そうなのに内装はとてもきれいだ。床がきしんだりもしない。だから、台所を見てみると彼女は僕に気付かず野菜を切っていた。

「あ、見ちゃだめだよ」

 僕に気付くと、彼女はみじん切りのにんじんを手で隠した。

「だめなんですか」

「だめです」

「何をつくってるんですか」

「魔女オムライス」

 なんだそれ。

「魔法とか使うんですか」

「いや、薬をめっちゃ使う」

「こわ……」

 まあ、薬は冗談として、見てはいけないというのなら見ないでおこう。机くらい拭いておこうかな。そう思って、台所を出ようとする。

「あ、待って。ごはん、冷凍庫にあるから、二人分レンジで解凍しといて」

「ごはんに薬は使わないんですか」

「薬? あっ、使う使う。めっちゃ」

 彼女は自分で言ったボケを自分で忘れていた。



 結果。魔女オムライスはたいへんおいしかった。彼女は料理も得意みたいだった。

 三日経ってもどうもないので、やっぱり魔法や魔法薬は使わなかったのだろう。

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