四幕・小泉くんの左目
黄泉国を脱出して、黄昏時の黄泉比良坂まで出て、あと少しで橋姫の待つ橋に着くといったところだろうか。
さくらさんが深刻さを孕んだ、苦痛に満ちた声を上げた。
胸を押さえる真田くんに、寄り添い介助するさくらさん。
どちらが死人なのか、もうわからない。
一見すると真田くんのほうが死んだ人のような顔色だった。
「秋兄さん……」
「大丈夫だよ。あと少しだからな、さくら」
真田くんはうわごとのように呟いた。
仲が良いことだ。幼馴染というか、もう夫婦って感じの貫禄。
僕はそんなことを考えつつ、真田くんの体調を鑑みて、花廻り屋八雲さんに休息を提案する。
真田くんは本来、大きな病院の集中治療室あたりで、うんうんと唸りながら、絶対安静にしていなければならないのだから。
無理に無理を重ねて死なれてしまっては、元も子もない。真田くんの魂を探すために黄泉国へとんぼ返りするのは嫌だ。
僕の提案に真田くんは首を横に振ったが、さくらさんは休むのに賛成した。
もう黄泉国を出たし、さっきみたいにいつの間にか包囲されることはないだろう。
「小泉くん。休む場所を見つけてきてくださいまし」
花廻り屋八雲さんは、すんなりと休むことに了承してくれた。
ちょっと意外だったので、毒気を抜かれた気分だった。
休む場所はちゃんとした場所を用意してほしいとのことだったので、僕は人の気配がない木造アパートを見繕い、一室の扉を蹴破(けやぶ)った。
扉が室内へ倒れると、ブワッと埃が舞い上がり、視界が一瞬灰色に染まる。
僕は木造のアパート内へ足を踏み入れた。
ギシギシと廊下が軋む。廊下がたわんでいるけど、穴はあかないよな?
アパートの中を見てまわる。当然、人の気配はない。
フローリングの部屋と畳敷きの部屋があるが、風呂とトイレが付いていない。昭和に建てられた、貧乏アパートの一部屋といった感じだろう。ウサギ小屋だ。
畳敷きの部屋の中央には、木製のちゃぶ台がぽつんと主の帰りを待つように鎮座していた。
相当な期間、誰も住んでいないのだろう、アパートの中は埃が凄い。ワイシャツの袖で鼻と口を覆い、僕は一人で探索を進める。
埃の積り具合、蜘蛛の巣の張り具合から、僕は相当な期間無人であると判断した。
しかし、つい最近まで、いや数時間前まで誰かが居たような奇妙な生活感がある。もしかしたら、僕が探索した部屋以外に何者かが潜んでいるのかもしれない。
家具類もそろっており、人間臭さ的なものがあった。
矛盾をはらむ違和感に恐怖を抱く。扉の向こうや家具の中に誰かが潜んでいるのではないかとい疑心暗鬼に陥った。
忌々しい左目を使い、扉の向こうや家具の中に何もいないことを確認しながら進む。
とにかく、灯りが欲しかった。
灯りの下ならお化けが出てこない、という謎心理の結果だ。
電球がぶら下がっていたので、点灯させてみたが点かなかった。
黄泉比良坂にある建物の多くには、なぜか電気は通っているはずなのに、電球が点灯しない。
電球が切れてしまったのかもしれないな。
非常に薄暗い。心細い。
「ロウソクに火をつけてくださいまし」
「ぎゃ! ビビビビ、びっくりした!」
いつの間にか背後に立っていた花廻り屋八雲さんが、ロウソクとマッチを僕に寄越す。
なんでロウソクなんて花廻り屋八雲さんが持っていたんだろう? 素朴な疑問が脳裏を過ったが、花廻り屋八雲さんだから持っていたのだろうと、勝手に納得した。
ちゃぶ台に食器棚から持ってきた皿を置き、その上にロウソクをのせる。
マッチでロウソクに火をつけた。
じじじ……と音がして、やたらと大きな火がつき、木造アパートの室内が明るくなった。
時代劇で使われるタイプの炎が大きいロウソクだ。
真田くんの寝るスペースをさくらさんが作っている間、手持ち無沙汰な僕は木造アパートの室内の探索をさらに進める。まだまだ、恐怖心が取れなかった。
花廻り屋八雲さんは煙管に煙草葉を詰めて、桃の香りのする不思議な煙草を吸い始めた。
桃の香りのする不思議な煙草の煙で、埃っぽい木造アパートの室内が、いくぶんか浄化されたような錯覚に陥る。
台所に流し台があった。
汚れた食器が流し台にたまっている。汚れを指ですくい汚れ具合を確認した。乾燥具合から、かなり前につけられた汚れのようだ。っていうか、なんの汚れだ、これ?
汚れを取るために、蛇口を開いてみるとドロっとした赤黒い液体が、ボタボタと垂れ出す。
錆びを含んだ水道水だろうかと思ったが、液体の粘度が高い。
おそらく普通の水道水ではないのだろう。
人体にも有害そうだ。
「小泉くん。なにをしているのでございますか?」
「あ、何もしてないです!」
花廻り屋八雲さんに咎(とが)められた気がして、僕は慌てて蛇口を閉める。花廻り屋八雲さんたちがいる畳敷きの部屋へ戻った。
黄泉比良坂は常に逢魔が時。近くでも人の顔があやふやになる嫌な暗さが続く場所。
でも、この部屋は明るい。
花廻り屋八雲さんの持って来たロウソクがやたらと明るく、ロウソクの周りに集まった全員の顔がよく見えた。
真田くんはさくらさんに膝枕をしてもらっているようで、さくらさんは、あの慈愛に満ちた穏やかな顔をして、真田くんの頭を撫でていた。
「ん、どうかした?」
さくらさんが、小首を傾げ、僕をまじまじと見ていることに気がついた。真田くんへ向ける慈愛に満ちた顔はしていなかった。
「あの」と前置きをして、
「小泉さんの左目、色が白濁していて……もしかして失明しているのですか?」
さくらさんが、僕に尋ねた。
無意識に左目を手で隠す。
ほとんど反射的といっていいほどの速さだったかもしれない。僕の反応を見て、さくらさんはしまった、とバツの悪そうな顔をする。
しまったと思うなら、尋ねないでほしいんだけど……。
僕たちの様子を見て、花廻り屋八雲さんは愉快そうに口角を吊り上げた。
「真珠のようで綺麗な目でございますよ。小泉くんが嫌いでございましたら、譲ってくださいまし、その左目」
「嫌ですよ」
「吝嗇家は好かれませんわ。いいじゃございませんか。左目くらい。右目がございますから」
「僕の左目は、一つしかないんですから嫌です!」
花廻り屋八雲さんは、面白かったのか、「クフフフ」と笑う。
僕は左目から手をどかして、気まずそうにしているさくらさんの問いに答える。
「失明はしてないよ。ほとんど見えないけどね。それに……」
「それに?」
「この目は、うーん、なんというか……この世に存在していけないモノが視えるんだ」
「この世に存在してはいけないモノ、ですか?」
「うん。ありていに言えば妖怪とか穢れとかかな……」
わかりやすいような表現を選んで答えたが、さくらさんにはイマイチ、通じなかったようだ。一方、眠っていると思った真田くんが「だからか」と声を漏らす。
「だから、黄泉比良坂の四ツ辻で、七人同行が見えたんですね! それにさっき、黄泉国の小屋で、ヨモツシコメに囲まれたのがわかったのも、左目のおかげですよね?」
「あ、うん。そう」
真田くんは、納得したように頷いた。真田くんは意外と疑問に思ったことを追求するタイプのようだ。
「すごいですね、小泉さんの左目」
真田くんは悪気がなさそうに言う。
「僕は、本当に普通の左目が欲しかったよ……。こんな普通じゃない目を持っていても困る」
「あ……すみません」
真田くんもバツの悪そうな顔をした。その顔が、さくらさんとそっくりで、僕は気が抜けて、思わず噴き出してしまった。
真田くんとさくらさんは、不思議そうに僕を見た後、顔を見合わせた。
「いや、あの……二人とも、本当にお似合いのカップルだなぁと思ってね。なんていうかな、似た者同士だし、美男美女だし、見ていて飽きないよ」
僕は嫌味を少々混ぜた所感を、二人に伝えた。
僕の発言を受けて真田くんは頬を朱色に染め、さくらさんは頬を桜色に染める。
「カップルだなんて……」
「そ、そう見えますか?」
真田くんは照れ、さくらさんは恥ずかしそうに僕に訊いてきた。
「まぁね。お似合いのカップルみたい。両想いなんでしょ、二人とも? 告白はしたの? まだしてないんだったら、ここでしちゃいなよ。きっと今! ってタイミングに告白しないと一生後悔すると思うよ……マジで」
僕には好きな人がいない。だから、一生後悔するかどうかなんてわからない。でも、タイミングを逃してしまうと、人生が狂うことだってあると思う。この二人にはタイミングを逃してもらいたくない、と思えた。
僕は、真田くんとさくらさんに、人生経験豊富っぽい先輩風をふかしてみた。
二人ともお互いの顔を見て、甘い甘い笑みを浮かべる。二人の間にハートマークの幻影が見えた。
「クフフフ。本当に……でございますなぁ。昨日と同じ今日はなく、今日と同じ明日はございません。そのことは、すでに経験済みではございませんか? お嬢様が亡くなったときに」
花廻り屋八雲さんは珍しく優しい声で、真田くんに言った。
……そうか。そうだった。さくらさんはすでに亡くなっていたんだ。
うー先輩風を吹かしてしまった僕はもしかして、最高の道化師(どうけし)を演じてしまったのではなかろうか?
「えっと、さくらには告白……しました……」
「されました……」
二人は恥ずかしそうに答えた。
「で、答えは?」
僕は、手で顔を扇ぎながら、尋ねた。わざわざ訊かなくても、答えは分かっている。察してとぃう雰囲気だ。
でも、聞きたいじゃないですか。幸せのお裾分けが欲しいじゃないですか……。
「その……あの……よろしくお願いします! と答えました!」
さくらさんは、顔を真っ赤にして答える。
青春だ。僕は青春を見た。
ここは二人の祝福のために、道化師役を続けようではないか。
「ひゃー! 本当にお似合いのカップルですよ、ねぇ、八雲さん!」
「そうでございますねぇ。双子の兄妹だけあってお似合いでございます」
「そうそう、本当に。双子の兄妹だけあってお似合――はい?」
僕は視線を花廻り屋八雲さんから、真田くんとさくらさんに向けた。
二人ともそっくりな意思の強そうな大きな瞳を見開き、固まっていた。驚きすぎてフリーズしてしまったのかもしれない。
視線を二人から、花廻り屋八雲さんに戻す。
花廻り屋八雲さんは、心底おもしろそうに「クフフフ」と笑った。
「えっと……えーーと、え?」
本日一番の混乱が、僕の脳内に訪れる。
「は、花廻り屋さん。何を言っているのですか? わたしたちが双子? ほ、ほら……名字が違うじゃないですか!」
真田くんが言った。さくらさんは同意するように頷く。
花廻り屋八雲さんは、つまらなそうに煙管を吸い、真田くんを見た。ジジジ……とロウソクが音を立てる。
嫌な沈黙に耐え切れなかった僕は、混乱をしつつ呟く。
「や、八雲さんは嘘をつかない……」
僕の呟きに、真田くんとさくらさんは、隠し事を咎められた子供のように、身体をビクリと震わせた。
二人は僕に視線を向けた後、恐る恐るといった感じに花廻り屋八雲さんを見る。
「隠しとおせると思いましたか? クフフフ」
二人を小馬鹿にしたように、花廻り屋八雲さんは口角を吊り上げた。
さくらさんは、大きくため息をつき、顔を上げる。負けを認めました、という表情をしていた。
「花廻り屋さんは、なぜ、双子という事実に気がついたのですか? 戸籍からして秋兄さんとは、他人となっているのに……」
「お二人とも、特に瞳がそっくりでございますからね」
確かに、二人とも意思の強そうな瞳がそっくりだけど……。しかし、気がつくか普通?
「小泉くんの眼もまだまだでございますな。また、『普通』は違うと考えていたのでございましょう?」
僕の考えていることを見透かした花廻り屋八雲さんは、黄金色の瞳を歪めて馬鹿にしてきた。
「本当に駄目なお人でございますね。『普通』という色眼鏡(いろめがね)を早くおとりなさい。よろしいでございますか?」
花廻り屋八雲さんに怒られた。
僕は答えず、花廻り屋八雲さんから顔を逸らした。不貞腐れてしまったのだ。
花廻り屋八雲さんは珍しくため息をつく。
顔を逸らした先にいた、真田くんとさくらさんが、微笑まし気に僕たちを見ていた。そういう視線を向けないでほしい。
話題を変えるために、僕は口を開く。
「だ、だいたい何で二人とも名字が違うんだよ?」
「秋兄さんの義父様……つまりは、御当主様に子供が出来なかったので、秋兄さんが養子となったのです」
「実の息子を養子に取られたうえ、実の娘の心臓もよこせって、普通な人間の僕には到底理解できないんだけど」
花廻り屋八雲さんへの嫌味を混ぜつつ、僕は二人に悪態をつく。
しかし、花廻り屋八雲さんは、僕の発言なんて一切気にしていない涼しい顔をして、煙管を吸っていたので、一人相撲を取ったようで恥ずかしかった。
「真田家のためですから。仕方ないのです」
さくらさんは、ニコリと笑った。
真田家がどのようなものかは知らないけど……正直な話、家を存続させるために、生まれた双子両方の命を捧げるという親の価値観が、僕には理解できない。
理解してはいけないと思うのだ。そういうことは。
「真田家のためって。なんか戦前みたいな考え方だね……」
「美しい国、美しい文化、美しい伝統でございますなぁ。クフフフ」
「八雲さんが言うと嫌味にしか聞こえません」
僕は花廻り屋八雲さんをジロッと見た。花廻り屋八雲さんは、僕の威圧なんてどこ吹く風だ。僕は真田くんとさくらさんの方を改めて見る。二人は僕を見据えた。
「ところで、告白したときには、二人は兄妹って知っていたの?」
「わたしは知っていました。でも、心臓の病のせいで長く生きることできないと思ったので、思い切って告白しました」
真田くんは答えた。真田くんはそういうところがあるよね。
変に思い切りが良いというか、理性を衝動性が上回るというか……。
僕はさくらさんを見た。
「ボクもお父さんと御当主様から、秋兄さんが実の兄だということは聞かされていました。秋兄さんのために滅私(めっし)奉公(ほうこう)するようにとも。だから、最初は本当に戸惑ったのです」
……ふむ? 僕は違和感に首を傾げてから、口を開いた。
「さくらさんは……真田くんの命が短いから、最期の思い出を残すべく告白に了承した感じなの? 親からの教え……滅私奉公的な感じで――」
僕は何となく引っかかったことを、さくらさんに尋ねた。
大谷家は真田家に滅私奉公するようにと言われているようだから、真田家次期当主の真田くんの告白に、さくらさんには断るという選択肢はないのでは? と思ったから。
「違います!」
さくらさんは、とても大きな声で否定した。ちゃぶ台をバン! と叩く。
声に怒気が混じっている。僕は思わず背筋を伸ばしてしまった。明確な敵意、怒り、殺意で肌がピリピリする。
さくらさんの目が怒りで、据(す)わり、どす黒く濁る。
かなり怒っている。色白の頬が怒りで桜色になっており、微かに震えている。
「ボクは秋兄さんを愛しているのです。秋兄さんが兄妹と聞いたとき、どれほど絶望したか、あなたにわかりますか? 秋兄さんに告白されたとき……ボクがどれほど嬉しかったか、あなたにわかりますか? ボクの心臓があれば秋兄さんが生き残れると知ったとき、ボクはボクは……」
感極まったのか、さくらさんの大きな瞳から溢れた涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
最後は言葉にならない嗚咽を漏らし、俯いて泣き始めた。真田くんはさくらさんの背中をポンポンと叩きながら、苦笑いをする。
女の子を泣かしてしまった事実に僕は、あわあわと宙を手でかきむしり、助けを求めるように、つい花廻り屋八雲さんへ視線を向けてしまった。
花廻り屋八雲さんは、心底楽しそうな顔をして、僕の無様な姿勢を見物している。
しまった……助けを求める人選を誤った。
「小泉くんは、女心の理解にも、まだまだ時間がかかりそうでございますなぁ。これではお賃金が上げられませんわ」
花廻り屋八雲さんは「クフフフ」と嗤った。
ぐぬぬぬ……。
しばらく、さくらさんの嗚咽だけが、世界を支配する音になった。落ち着いたさくらさんは泣きはらした目元を袖でぬぐい、ぽつりと呟く。
「やっぱり変ですか……実の兄が好きなんて……。諦めるべきなのでしょう?」
可愛らしい顔が痛々しく歪む。まるで僕が責めているようじゃないか。
真田くんがさくらさんの手を握った。さくらさんはギュッと真田くんの手を握り返す。なんというか、胸が痛む。痛々しい愛情。
「僕には親も兄弟も恋人もいない。いた記憶もない。気がついたときには、何故だか月夜野古書店で働いていた。その前後の記憶が思い出せない。だから……」
僕には花廻り屋八雲さんくらいしか、親しいモノがいない。その親しさも危うい雇用関係の上に成り立つものだ。
花廻り屋八雲さんの気が変われば、僕はたちまち天涯孤独の身の上だ。
月夜野古書店に置いてある古書によって、人間関係を理解したつもりではいるけれど、所詮は表面的で疑似的なものにすぎない。
僕はきっといびつな人間なのだろう。
いくら普通を望んでも、スタート地点から、僕は普通じゃない。
どんなに普通を望んでも、スタート地点にすら立てないでいる。だから『普通』を渇望してしまう。花廻り屋八雲さんは、僕の渇望が気に入らない……もしくは心配なのだ。
なぜ、花廻り屋八雲さんが気に入らないのか、そして心配なのか、僕にはまだ理解できない。あの、他人のことなんてまるで歯牙にかけない花廻り屋八雲さんが、唯一気にして心を砕くのが、僕の普通への渇望なんて。
普通に憧れるのは、そんなに悪いことなのだろうか?
思考が溢れ言葉に詰まった。
僕を見ていたさくらさんは、申し訳なさそうに俯く。真田くんも神妙な顔をしている。
「さくらさんと真田くんの気持ちが僕には……わからない」
花廻り屋八雲さんは、嘲笑するように口角を上げた。でも、からかうようなことは言わず、僕の続きの言葉を静かに待つようだ。
さくらさんと真田くんも、静かに僕の言葉を待っている。
僕は、なんて答えればいいのだろうか? 答えが咄嗟に思いつかばない。
「百点満点の答えは期待しておりませんわ」
花廻り屋八雲さんが、とても優しい声色で言った。
遠雷が聞こえる。
「僕は……」
答え詰まってしまった。どうすればいいのだろうか? 一生懸命に頭を回転させるが、どうすればいいのかがまるでわからない。助けを求めるために花廻り屋八雲さんに視線を向けた。
「小泉くん。月夜野古書店へ着くまでに答えを出してくださいまし」
花廻り屋八雲さんは、答えを教えるどころか、自分で考えろと、僕を突き放した。僕は黙りこくる。
「どうやら、ここに長居をし過ぎましたわ」
「え?」
また、遠雷がなった。
「あ……噓でしょ?」
僕は言葉を失う。いつも逢魔が時の黄泉比良坂に雷が鳴るなんてことは、本来ないのだ。
黄泉国から、妣がやって来た。
黄泉国の軍勢と八柱の雷神を引き連れて、妣がやってきたんだ!
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