大切なもの
遊び疲れて、元の星に戻った二人は、寝台船に乗った。
仲良く、同じベッドに横になって、眠った。
一緒に目を覚ますと、そこは、静かな世界だった。
法則は、火が存在しないこと。
ここにはきっと、人類は
しかし、まだ動物すら誕生していない世界には、青い空の下に、苔の地面が広がっているだけだ。
「ツイヤちゃん」
アーロが、ツイヤの手を握って、その目を見つめる。
「ケッコン式、しよう」
「式?」
将来の約束をしたとはいえ、ツイヤは、式はまだ早いのではないかと思っていた。
「いまケッコンしちゃえばさ、約束、破らないでしょ」
アーロが笑うと、ツイヤの服は、きらびやかなドレスに変わる。
アーロの服も、
「ケッコン式って、何するの」
ツイヤは、憧れの
小さい頃に、親戚のお姉さんの結婚式を見たことがあったが、なんだか
「うーんとね」
アーロも、結婚式についてはよく知らなかったのか、首を傾げてしまう。
「えっと……じゃあ、踊って、美味しいものを食べて、ケッコンの誓い? をして、ちゅーして、あと、あ、あれだ! 首飾りと、腕輪の交換!」
アーロは、町の
ツイヤも、何かの物語で、結婚式のときに、それを贈り合うのだと読んだことを思い出す。
「どんなのにしようかなあ? ツイヤちゃん、どんなのが似合うかなあ?」
悩んだ
ツイヤは、唯一の持ち物である金色の鍵に付いていたキーリングを、ブレスレットとお揃いの、ただ円いだけの、金色の首飾りに変身させた。
「これはね、式の途中は自分で持っていて、最後に、交換するんだよ」
ツイヤは、細かいことはよく分からなかったので、アーロの言葉に頷いて、首飾りを自分の首に掛けた。
アーロは、ペンの蓋を作るより先に、澄んだ空気をキーリングに変身させて、彼女の大切な持ち物に付けた。
「んっと、じゃあ、踊ろう」
踊りは、二人にとっては、難しいことではなかった。
学校には、芸術の授業が沢山あって、町の伝統的な踊りはもちろん、様々な国や星、世界の踊りを踊ったからだ。
アーロが作ったラジオから流れる音楽に合わせ、アーロとツイヤは、踊った。
学校で習った通りに、そしてかなりの部分は、好き勝手に。
少しするとアーロは、音楽も自分で作り始めた。
学校で習った通りに、そしてかなりの部分は、好き勝手に。
好き勝手な音楽の中で、好き勝手に踊った二人は、お腹が空いてきた。
ツイヤはまだ、何かを食べ物に変身させるのにはあまり自信が無かったので、アーロが空気や苔から、
「おなかいっぱーい」
「いっぱーい」
美味しい料理で満腹になった二人は、湿った苔の上に、ごろんと寝転がる。
「ええと、次は、何だっけ」
「ええと……」
踊りとご馳走を楽しんだ二人は、結婚式のことを、少し忘れていた。
「あっ、誓い! 誓いだ、誓い」
何とか思い出したアーロは、急いで立ち上がる。
「誓いって、何するの」
ツイヤも立ち上がるが、誓いというのが何なのか、分からなかった。
「うーん……」
アーロにもまた、分からないようだった。
だから二人は、抱き締め合って、触れるだけのキスをして、それから、首飾りと腕輪を交換した。
「ツイヤちゃん、似合うよ」
「アーロもね」
二人はそう言って、笑い合った。
「あ、でも……」
ツイヤが、大切な人にもらったブレスレットと、大切な人にもらった鍵を見比べる。
その鍵は、アーロが昔、彼女に贈った、大人になった時に開ける宝箱の鍵だった。
彼女は、無事に旅を終えて、素敵な大人になるようにというお守りとして、それを持ってきたのだ。
「アクセサリーは、服だから持ち込めるよ。通信機能とかが付いてると、個数にカウントされちゃうけど」
アーロは笑って、彼女の二つの宝物に、手を当てた。
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