子供

「動くな!」

 その声に、想とアーロは麻痺まひしたように、硬直する。

 二丁の銃のようなものが、想とアーロに向けられている。それを構えているのは、カウンターの向こうに立っている、二人の男だ。

「パパ……」

 涙目のアーロが、想の腹にしがみ付く。

 いくらアーロとは言え、子供だ。

 大人である想は、アーロを守らねばならない。

 想は咄嗟とっさにアーロを抱え、自分の身体をたてにして、銃口に背を向けるが――。

「お涙頂戴なみだちょうだいの演技もそこまでだ」

 開いたままの自動扉の向こうにも、十人ほどの人が立っており、武器を構えている。

「パパぁ……!」

 想の服を握り締めるアーロの手は、恐怖に震えている。

「不法入界、不法入界幇助ほうじょ、法則不正利用の疑いで、同行を求める」

 男の一人が、ぴくりとも動かずに言う。

「この子だけは、勘弁かんべんしてください」

 想はレイヤタ語で、声の震えを必死に抑えて言うが――。

「もちろん年齢と事情は考慮される。だが罪は罪だ」

 背後の男二人が、音も無くカウンターを乗り越え、想とアーロを追い込むように近付いてくる。

「そしてその子供は、全世界で、最重要さいじゅうよう指名手配犯しめいてはいはんとして追われている。全ての法則を自らのものとし、世界征服を企む、危険人物だ。一般人を舐めてかかったな」

 男が最後の言葉を、アーロに投げつける。

「違う! 違うよ! 人違いだよ! ねえパパああぁ……!」

 アーロは想にすがいて、泣く。

 恐怖の涙が、アーロに作ってもらった服に染みていく。

「この子は、私の息子です。言いがかりはやめてください」

 アーロは、異世界間の戦争を誰より悲しんでいる。そして何より、彼はまだ、十二歳の子供だ。世界征服? 危険人物? 有り得ない。

口答くちごたえなど意味が無い。付いてこい」

 想が外を見ると、そこには、頑丈がんじょうな車両らしきものが二台、停まっている。

 想とアーロを別々にして、連れていくつもりだ。

「せめて一緒にしてください」

 無駄だと分かってはいるが、想は頼むしかなかった。

「お前も、自分の立場を分かっていないようだな。マノク人」

 ふっと目の前が暗くなるが、想はアーロの背中を強く抱えて、耐える。

「マノク人は誰であれ、その子供と同等、またはそれ以上の危険人物だ。仲良く一緒になどできる訳がない。早くしろ」

 それからは、何を言っても無駄だった。

 こちらは、素人しろうとの子供と大人二人、対して相手は、訓練を積んだ大人、十数人。

 想とアーロはあっという間に引き離され、真っ暗な世界に押し込められた。

「あの子は私の息子です。指名手配犯なんかじゃありません。帰してやってください――」

 拘束され、視覚も聴覚も奪われた中で、彼は、アーロの父親になっていた。

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