技術

「アーロ」

 アーロが歩きながら、「ん?」と首を傾げる。

「穂乃美を探すから、少し待ってて」

 想は、手近なビルのガラス扉へ向かう――。

「んもう、おじさんったら!」

 だが、アーロにがっちりと腕を掴まれ、動けない。

「すぐ終わるから。それと、おじさんじゃない」

 ありとあらゆる建物に侵入してきた想は、この程度のビルならば、三十分ほどで探し終える自信があった。

 そして、二十四歳はやはり、おじさんではないだろうと想は思うのであった。――が、今はアーロの父親でいられるような見た目であるので、おじさんと呼ばれてもおかしくはないことに、暫くして気が付くのであった。

「あのねえ、マノク以外の世界の人類は、異世界間でたくさん情報交換をするから、ものすごく速く進化してて、しかもグレアドル世界は、重さの法則のおかげで、自由なものづくりができるでしょ。だから、技術がすごいの! 不審者なんか、すぐ捕まっちゃうんだから!」

「捕まったことなら何度もある」

 想はマノクで、勝手に建物に侵入しては、毎回のように不審者だと通報され、幾度いくどとなく捕まったが、捜査中の失踪事件の被害者の配偶者だということで、これまで何とか、謝罪だけで済んでいたのである。

「時間がもったいないじゃないのって!」

 アーロは想を歩道にり戻して、歩き続ける。

「この星はね、地球よりも倍以上大きいの! グレアドルの法則のお陰で、たまたま重力がちょうどいいから、こうして人類が進化したわけだけど――いや、そうじゃなくてさ、広いの! 人口だって、地球の四倍くらいあるんだから! そんなやり方してたら、この街を探し終わる前に、寿命で死んじゃうよ!」

 それもそうかと思った想は、アーロに引き摺られるままに歩いた。

「その鍵、奥さんも触ったことあるでしょ? その時に付いた皮脂ひしとかで、人探しなんか簡単にできるからさ、ケーサツ行こ。グレアドル世界の中だけなら、ぱぱっと探してくれるよ」

「そうなんだ」

 無知の自分が一人でどうにかするより、アーロに頼った方がいいと判断した想は、素直に彼に付いていく。

「こっち、こっちー」

 アーロは迷いなく、想の手を引く。

「ねえ、ソウさん」

 すたすた歩きながら、アーロが想を見上げる。

「奥さん、どんな人?」

 どんな――。

「言葉では、言えないよ」

「らぶらぶだねっ」

 アーロは無邪気に笑うと、大通りをれて、少し細い道に入る。

 細い道とは言え、大都会であるので、建物の雰囲気なんかは変わらない。

「こっち、こっちー」

 想は、アーロの小さな手を頼もしく思いながら、歩いた。

「あれだよ!」

 細い道を暫く歩いたところで、アーロが、どこかを指差す。

 店舗と交番の区別が付かない想には、彼が何を指差しているのは分からなかったが、頷いて、付いていく。

「おーまわーりさーん!」

 ある建物の前でアーロは止まり、元気よく、ガラス製らしい自動扉に飛び込んでいく。

「おーまわー」

「動くな!」

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