第42話 真の能力
「優介くん、どうして?」
閃石の言葉に、佐藤は炎を揺らめかせながら答える。
「先輩は俺たちのために協力してくれた。リスクを冒してまでバンディットの二人とメッセージを取ってくれたし、危険だと分かっててここに帰ってきた。そんな人を傷つけるのは、許せない」
「だ、だってこいつはもう無法者なのよ? 逮捕しないと!」
「魔法に関する刑法は存在しない!」
「……」
「そんなのお前たち魔法使いが勝手に決めて権力と武力で推し進めてるだけだ。日本国民の結論じゃない。民意じゃない。そんな法律もないのに勝手に逮捕する方が犯罪者だ」
「じゃあ、見逃せって言うの?」
佐藤は閃石に拳を構える。彼の行動に、交渉決裂を理解した閃石は自らのネイルを見つめた。
「そう、仕方ないわ……」
閃石の爪先が光を放つ。緑と、紫。佐藤も走り出した。拳を構えて、閃石の顔を目掛けて。
「私の方が、強いってば!」
彼女は佐藤の拳を回避しつつ、喉元に小指を突き立てる。そして紫の電撃を放った。これで佐藤は気絶する。中枢神経を麻痺させるだけの電力を浴びせたのだ。あとは野辺地を処理し、佐藤優介については逮捕した上でもう一度交渉してみよう。そんなことを考えていた。が、彼女の優位性は一瞬で覆った。
「……どうして?」
閃石の腕は佐藤の喉を貫通し、向こう側に飛び出している。灼熱が右腕を焼き、鋭い痛みが骨にまで突き刺さる。
「――ッ!」
声にならない悲鳴を上げて、閃石はその場に崩れ落ちた。人に触れた感触はなかった。まるで本物の炎に触ってしまったかのような猛烈な痛み。佐藤から離れた腕は黒く焼け爛れ、服の袖が黒煙を上げている。外気に触れた皮膚は異様な冷たさを脳に伝え、その刺激に耐えかねて涙を流した。
「閃石さん、魔石虫、返してもらうよ」
佐藤の言葉に、閃石は涙を浮かべながら首を横に振った。
「ダメ、ダメよ! せっかく手に入れたんですもの! これだけはダメなの!」
「元々俺のものだし」
佐藤の体から灼熱が取り除かれ、次第に火炎は落ち着いていく。公園は夜の静けさを取り戻し始めた。
「どうして、どうしてこんな!」
閃石が震える手で自らの右腕を見つめる。そんな彼女に目もくれず、佐藤は空の魔石虫をむしり取るように奪うと野辺地学の方へ振り返った。
「先輩、よく気づきましたね」
野辺地は寝そべったまま親指を突き立てる。
「俺を誰だと思ってんだ。バズるための観察ならだれにも負けねえんだぜ」
「あはは、頼もしいですよ。立てますか?」
佐藤は野辺地に手を差し出す。それを握り緊めて、先輩はゆっくりと起き上がった。
「実は全部撮影してたんだよ。バズるかもって思ってさ。後輩の無くし物を追え! 的な動画作ろうと思って。そしたらとんでもないものが撮れちまった」
「あはは、まさか魔法が撮影されるなんて想定外ですよね」
「お前は燃えるし。マジでビビったよ」
「そこまで見てたんですか?」
野辺地は顎で滑り台を指差した。
「あそこに遠隔操作可能なカメラ置いといたんだ。割と高いんだぜ。そしたらお前が燃やすもんだから焦ったよ。でも、燃えなかった」
佐藤は頷く。リボルバーの実験で何度小物を燃やしても全くダメージを受けなかったのだ。佐藤だって全身燃えた割に、衣服は一切焦げ付いた様子がない。
「そこで俺は気づいた。これは対象を燃やす銃じゃないんだなって。この銃は対象を炎に変える魔法だ」
「正確には、対象を魔力に変換させる魔法、ですかね」
「その辺の詳しいことは知らねえよ。ただ、それを察した俺はお前を撃ったってわけよ」
「えぇ、助かりましたよ。野辺地先輩」
佐藤と野辺地はそろって閃石亜愛を見た。彼女は震える左手でマニキュア容器を開け、右腕にインクを垂らしている様子だった。ベージュの魔法は効果絶大らしい。遠目にも分かるほど、見る見るうちに彼女の腕が綺麗な肌色へと戻っていく。
「魔法ってすげぇなぁ」
「ほんと、凄いですね」
男二人が感心してるのも束の間、腕がある程度回復した閃石はその顔に怒りの色を浮かべて立ち上がった。
「二人とも、やっぱり極刑する……!」
「あれが本当に閃石ちゃん? おお怖い」
「野辺地先輩、冗談言ってる暇ないですよ。彼女めっちゃ強いんですから」
佐藤が溜息を零す。閃石はそんな佐藤に人差し指を向けてハッキリと言い放った。
「優介くん、別れましょう」
佐藤は頷く。
「うん、短い間だったけどありがとう、亜愛ちゃん。君と過ごした時間はとっても楽しかったよ。本当に、素敵な夢を見させてもらった」
彼女は悔しそうに表情を歪ませた。
「先輩、銃返してください」
「お、おう。でもどうするんだ? 殺すのか?」
「まさか、曲がりなりにも元カノですよ? それに、必要なとき以外女の子は傷つけたくないんで」
佐藤は笑いながらリボルバーを受け取ると、シリンダーを開いて中を見た。残りの弾薬は三発。全部赤。殺傷能力が高いこの魔法を使えば、彼女を殺してしまうかもしれない。
「ねぇ亜愛さん。最後に一つ聞きたいんだけどさ」
「なによ」
彼女の声は震えていた。痛みをこらえているのだろう。回復ができる魔法とはいえ、全回復できたとは思えない。佐藤は少し申し訳なさそうにしながらリボルバーのシリンダーに空の魔石虫をハメ込んだ。白い光が発生し、無色の弾丸が装填される。
「バンディットの二人は、もう死んじゃったの?」
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