6.自宅台所
第31話:処理する
「あー、《完全犯罪者》ね。『本人の神秘・知識・技術により、一切の証拠を残さず犯罪を達成できる神秘持ちあるいは異種族』に与えられる称号だよ。片手で数えられるくらいしか認定されてない」
茹で枝豆を剥いている最中、数日前の京の発言が気になってオウキくんに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
「誰が認定するの?」
「アーカイブ代表で認定する。そのアーカイブ代表に3人いるけどね」
「……身内でも容赦なく認定してるなら逆に安心できるかもしれないよね」
「俺たちに身内贔屓はないよ」
オウキくんのボウルを引き取り、調味料をかけて混ぜる。
「紅谷くんは《準完全犯罪者》……条件付きで達成できると認定されていたんだけど、シェルが式神制作を教え込んで伸ばしたせいで『準』が取れちゃった」
「お師匠様は偉大ですなー。味見頼んます」
「偉大だよねー。お、さっぱりしていい感じ」
「あざーす」
酢・塩・砂糖でさっぱりいただける味付けを目指したので、そこを見抜いてくれるオウキくんがさすがで嬉しい。
「ってか、6月なのにもう暑いよね……」
「だねえ……ところでここにカニカマと玉ねぎスライス入れない?」
「いいね。なんか足りないって思ってたんだ」
本日はオウキくんとほか何人かの料理好きを招待しての、食材消費パーティー開催日である。知人からの肉海鮮野菜類が3件バッティングしてしまい、調理と消費を手伝って欲しかったのだ。
手分けしてカニカマをほぐす。
「京の調子はどうだい」
「調子は……ぼちぼちみたい、かな?」
「まあ、まだ妊娠がわかったばかりだものね」
「でも、なんかカボチャが食べたくなってるみたいで、『夏なのにカボチャ……!』って葛藤してますな」
「あははは。食べられるものがあるのは良いことだよお。茹でカボチャ?」
「そう。塩振ったシンプルなやつが食べやすいみたい。北海道からの熟成カボチャがありがたいよ」
北海道在住の佳奈子に話したら、すぐに送ってくれた。こちらからはスイーツをお礼に送る予定である。
「キミたち夫婦のまめなところ、良いよねえ」
「お返しは大切ですからね。オウキくんのご両親やチトキさんにもよくしてもらってます。ありがとう」
現在のチトキさんは京のお部屋で手足をほぐすマッサージをしてくれている。
「あら、仲良くお話ししてたのね」
「あ、ガーベラさん。ちわっす」
コペラさんを抱っこするガーベラさんがやってくる。
「お招きとっても嬉しいわ。コペラもこんなに可愛い」
「 ♡」
喋れなくともはしゃいでいるのがわかるコペラさん。
「でも、ほんとうにいいの? ここのうち、大所帯でしょうに」
「対応しきれなくて困ってたんですよ。手伝ってくださると助かります!」
積まれた大型ダンボールを示すと、彼女はくすりと笑った。
「ほんとうね。何から処理してほしい?」
「野菜類でおねしゃす。時間停止の効力が切れそうなやつ、調理台に並べてありますんで」
冷凍便でやってきた海鮮と肉は、調理に使う分を冷蔵庫で解凍中である。
「あんなに量があるなら魔法を使うわね。危ないから入ってきてはダメよ」
「あざーす!」
コペラさんをオウキくんの隣にリリースしてからキッチンへ。
「 。 !」
百合根をほぐすオウキくんへ、何やら一生懸命に話しかけるコペラさん。
「……キミもやってみるかい?」
「 !」
「そう。光太、コペラにボウルを一つ」
「はーい。……って、もしかして知り合い?」
「昔、封印監獄に連れて行った子。覚えていてくれたみたい」
「……そっか」
ボウルを二つ手に取る。
コペラさんがやってくれば、弟のアーノルドさんも現れるからだ。お姉さんと逆側からオウキくんに寄り添う。
「 ?」
「『何を作るの』だって。どうだい、シェフ」
「シンプルに茹でたり焼いたりするのと、ポタージュにしようと思っておりますよ」
「 、 !」
「……キミがつくるものならきっと美味しいってさ」
「コペラさん……っ! 嬉しいよ」
ナイフで根っこに切れ込みを入れ、外す。そしてほぐす。百合根には土や保存用のおがくずが細かく入り込んでいるので、ほぐした後はそれを落とすために洗いにいくのだ。
「終わったわ」
「はっやい! あざす!」
「うふふ。いくらかカットして冷凍庫に入れてあるわ。あなたたちも使うでしょうから。……そろそろお昼よね。炒飯でも作りましょうか?」
「何から何まで……お願いします」
「野菜たっぷりにするわね」
ガーベラさんはコペラさんとアーノルドさんを撫でてからキッチンへ戻っていく。
後ろ姿さえ美しい。
「……さすが王妃様って感じだよね」
「うん」
話す間も、百合根をほぐす手は止めなかった。
ガーベラさんによる絶品炒飯と簡単サラダを食べ、休息をとってからさあ再開、という頃。
「終わりかけ? 出遅れたかな」
続いてやってきてくれたのはエドさんだった。
オリーブオイルをお土産にくださる。
「海鮮がこれからっす……カキとホタテが殻付き」
「おや、新鮮そうだ」
「処理できます? 任せても……?」
俺は豚肉をさばいて、調理用と保存用、持ち帰り用に分けているところである。オウキくんたちは調理済みの百合根料理を仕分け中。ガーベラさんは最も量が多かった鶏肉をキッチンで捌いてくれている。
「軍の下っ端時代にはよく下拵えしたものだ。任せてくれ」
エドさんは腕まくりのち、手指の消毒にかかる。
「え、軍って意外とお洒落なもの食べるんすね! いいなあ」
「
「……聞かなかったことにした方がいいですか?」
「ははは」
カキは叩いて殻を割る必要があったり、貝柱を上手く切らないと開かなかったりと、多少コツが必要な海産物である。
しかしエドさんは頑強な握力で殻の端を割ってナイフを差し込むという豪快さで次々処理していった。あっけに取られる。
オウキくんは特に驚くことなく話しかけた。
「リヴィちゃんの調子はどう?」
「おかげさまで健康です。教えていただいたレシピが妻も娘も気に入ったようで、よく食べるようになりました」
「夏バテは辛いよねえ。食べられるのは良かったよ」
「ありがとうございます」
本日の奥方は、おうちで娘さんとラブラブしているそうな。
「光太もお誘いありがとう。二人が料理と食材を分けてもらうのを楽しみにしていたよ。手伝えなくて申し訳ないともね」
「いえいえ。妊娠中でにおいのする場所は辛いでしょうし、働いてもらうわけにいきませんから。……ところでエドさん、素手ですがケガとか……」
「竜の皮膚は硬いよ」
「……はい」
ごつごつと硬い殻を指先で割る。ナイフを差し入れて開ける。身をボウルへ落とす。破片が出ないように割っているのが凄技だ。
「けっこうな量だ。どう調理を?」
「ガーリックソテーとか時雨煮とか……あとはやっぱりカキフライっすかね」
「美味しそうだね」
「唐揚げ仕込んだわよー」
「! 早い」
ガーベラさんがにこやかにこちらへやってくる。
「揚げ物が出揃ったら一気に揚げちゃいましょう。急ぐものはだいたい下処理ができたから、休憩ね」
「助かります……!」
「光太と京はものを送ったら返してくれるから、助けたくなるのよ」
なんと嬉しいお言葉。
よし。
「オウキくん休憩する?」
「なんで?」
「疲れてきそうだから」
「……キミが言うなら、そうさせてもらおうかな。京のお見舞い行ってくるよ」
「光太もついていってあげなさいな」
「王妃様。子ども扱い、」
「あなたの体と体力は紛れもなく子どもだもの」
むぐうとおし黙るオウキくんがちょっと可愛い。
「じゃあ手洗いしに行こう」
「……うん」
場にいる面々に断ってから、洗面所へ向かった。
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