第10話:団欒の時間
本日のチトキさんとオウキくんは、東京のあちこちをぶらついていたらしい。
「月に一度くらい、二人でおでかけしてるんだよ」
シンビィさんたちへ報告メールを打ちながらのチトキさん。
オウキくんにとって、彼女はもう一人の母のような存在だ。いももちのソースが口の周りについたのを拭いてあげている。
「いきなり来ちゃってごめんよ。お夕飯、ありがとうね」
「お気になさらないでください……♡」
「京ちゃん目がキマってるよ」
「尊くて……♡」
京にとって、父と慕う彼が幸せでいることが嬉しいのだ。
ミオがそっと近くに来ると、オウキくんもそっと受け入れる。
エディちゃんは威風堂々とやってきて、オウキくんの向かいに座った。
「こんにちは、オウキ」
「……驚いたな」
「本日、会話機能を実装した」
「なるほど? キミがいうのならそうなんだね。……弟くんも元気そうで何より」
ストラくんはご両親にかまわれながら、いももちや果物を食後のデザートに食べ続けている。
「ありがとう。弟はいつも元気だ。私のような姉を持ったというに、気丈に振る舞ってくれたこともあったろう。愛しい弟」
「なんというか、……王様似だね」
「光栄だな。あなたも時と場合によってご両親に似ている」
「その『時と場合』がいつどんな場合を指すか教えてもらってもいい??」
切実な疑問だ。
オウキくんが真剣に問いかけるのを優しい苦笑で眺めるチトキさんに、キュランさんとトープさんが声をかけたり、オウキくんに懐いてうとうとするミオにエディちゃんストラくんが寄り添ってくれたりと、とても和やかな風景。
京は仲良しなちびっ子たちの写真撮影で大興奮しており……
……なんというか、俺たちの子どもがほしいと思った。
「光太」
「! はい」
呼ばれて振り向くとジンガナさん。
「お部屋で少しお話をしましょう。ガーベラもいらっしゃいな」
「あら、指名ですか。喜んで」
ジンガナさんは皆さんに手早く挨拶をし、俺とガーベラさんを連れてジンガナさんの部屋に入った。
「光太。ガーベラを乱数転移させなさい。調整はわたくしがいたします」
「!? 何かありましたか?」
重々しく頷く。
「今日、コペラに薬品を塗りつけようとする者が出ました。アーノルディが半死半生にしましたが、許せぬこと」
「そんな……!」
我が家の悪竜さんであるコペラさんは、いつもアーノルディさんに肩車か抱っこをされている幼い見た目の女の子。二人は仲良し姉弟なのだ。
「怪我はありませんか!?」
「ありません。男の腕ごと薬品を蒸発させましたもの」
「良かっ…………コペラさんが無事で何より!」
「方向転換が上手になりましたわね」
恐縮です。
「やだっ、そいつ殺さなきゃ! 吊るしてなますに刻まなきゃ!」
ガーベラさんはブレない。
「半殺しで我慢したアーノルディの努力を無駄にしないように」
「そうなんですか……偉い子ですね」
「ええ」
「転移先は?」
「異種族への嫉妬に駆られる者たちを煽り立てる者がいます。その者たちの元へ向かい、捕縛をお願い」
「わかりました! 光太よろしく」
「うす」
乱数転移でガーベラさんの姿が消える。
「……さて。おいでなさいな、オーキッド」
「ジンガナ様って意地悪ですよね」
オウキくんが床に転移出現。
ジンガナさんは躊躇いなく抱き上げる。
「可愛らしい」
「…………」
「シュビィとフローラには?」
「まだ明かさないよ」
「あなたがそう思うのならそれが良いですね」
微笑ましく見ていると、オウキくんが不機嫌そう。
「……ごめん。丸くなったなーって」
「ふうん」
「ところで、このままオウキくんって呼んで接してても大丈夫?」
俺は大した演技力もなく、うっかりもやらかす自覚があるので、事情を知る人だけの場では『オウキさん』、そうでない場合は『オウキくん』と切り替える自信がないのだ。
「いいよ」
「ありがとう。なにか、俺かジンガナさんにご用?」
「うん」
ジンガナさんに撫でられるのを避けつつ(避けきれてはいない)、教えてくれた。
「王妃様が捕まえた男女が、面倒な神様を信奉しているものだから、光太にも頼るかもしれない」
母様に頼んで探ってもらった、とのこと。彼にとっての母様とはチトキさんだ。
「面倒な神様?」
神様は知り合いに何人かいるが、面倒なところのない神様をあまり知らない。
「ジンガナ様の前でそう考える度胸、怖いけど嫌いじゃないよ」
うふふと微笑むジンガナさんに本気で頭を下げる。彼女は鷹揚に赦してくださった。
「その神様は性格より性質が面倒なんだ」
「そっかあ」
俺に先入観を入れてもメリットがないため、異種族の皆さんは基本『おまえの目で見て確かめろ』というスタンスだ。こちらとしてもその方が動きやすい。
「じゃあ、話が来たら頑張るよ」
「よろしく。ジンガナ様、おろしてください」
「名残惜しゅうございます」
「……」
抵抗も抗議も無駄と知るオウキくんは、諦めて抱擁を享受する。
こういうところが丸くなったと思うのだ。
ノックをしたチトキさんをジンガナさんが大歓迎して、そのまま話し始めるものだから。
俺はオウキくんの助けを求める視線を無視して、部屋を辞した。
リビングに戻ると、エディちゃんが京に甘えているところだった。ストラくんに煎餅を食べさせるユニさんがにこにこ眺めている。
俺と目があったエディちゃんは優美に微笑む。
「奥方をお借りしている」
「お、おおお……良いと思います……」
3歳と思えない風格が凄まじくて気圧されてしまう。
「…………。京、光太がよそよそしい。どうしたら良い?」
「エディちゃんが格好良くて動揺してるんだと思う。でも大丈夫! 甘えておいでー」
「そうしよう。アドバイス、感謝する」
とてとてとやってくる姿は幼く、両腕を軽くあげた彼女をそっと抱き上げる。
確かな体温。
「……おおぎぐなっだね……!!」
「泣かれると思わなかった」
生まれたばかりの頃から、エディちゃんを見せてもらって、遊んでもらったりもしていた。
その子がこんなにも大きくなって、でもまだまだ幼くて、なのにお父さん似の風格や彼女自身の個性が出てきていて、成長を感じる全てがとにかく尊い。
しばらく抱っこさせてもらい、くるくる回ったりしてから京のところへ返却する。
「おかえり」
「うむ。ただいま」
こうまでもお父さんに似るとは感慨深い。
さて。
先程くるくる回っているうちに見つけた、ミオのいる和室へと向かう。トープさんとキュランさんに本を読み聞かせてもらっているようだ。
「お二人、娘がお世話に」
「やあ」
「私たちの方がお世話になっている。実に博識な娘さんだ」
何の本を見ているのだろうと思っていたら、技術の進歩を記した分厚い本。ミオのリュックに入っていたそうな。
「お母様からの誕生日プレゼントなの……面白いから、見せたくて……」
「ありがとー。内容がすごく面白いし、ミオがたくさん勉強してるから説明も面白いよー!」
「そうだとも。科学技術の発展とはこれほどまでに面白いのだと知れた」
二人から撫でられて赤くなるミオ。
「……竜の国の技術史も、教えてほしいの……」
キュランさんが宿る魔導書は、何を隠そう竜の国の歴史書である。
「いいとも! 僕が寝ている間にも《僕》は更新されていたようだしね。いま印刷するから待っててー」
印刷というのは、彼が物質構築魔法とやらでその場に作り上げる紙のこと。日本語に翻訳した状態で、数枚のA3用紙を出現させた。
「……キミたちも講義聞く?」
ユニさんとストラくん、京とエディちゃん、ジンガナさんとチトキさんとオウキくん。そして帰ってきたガーベラさんが揃っていた。
「おっけ。楽しい時間を過ごそう!」
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