第10話

「青山……だいじょうぶ……?」

近づいてきた時から、すぐに千川だとわかった。

その声はどこか寂しそうに感じたが、僕は何も答えないでいた。

すると千川はぎこちなく、そして大切なものに触れるように僕の手を撫でた。

そして、そのまま指を絡めるように手を握ってきた。

「……もう俺の味に飽きた?甘くなくなった?男とキスなんて嫌になった?」

早口で咳を切ったかのように一気に問いかけてくる千川。

「……俺、嬉しかったんだ。自分がケーキだったことも、フォークに見つけてもらえたことも。俺が持ってたフォーク用の麻酔、母さんのなんだ。俺の両親、フォークとケーキでさ、昔は今より世間はお互いを危険視していたし、フォークは忌み嫌われてた」

黙って聞いていたが、突然の千川の告白に握られている手が思わず反応してしまう。

「だから、周りにはもちろん内緒にしてたし、お互いの親にはめちゃくちゃ反対されたって。子供の俺でさえそんなの危険すぎるって思うよ。でもそんなの関係なく、命を危険に晒してでも、一緒にいたいと思える父さんに出会えた母さんが、俺は羨ましかった。フォークとケーキの性を持つ人間は少ない。ましてや、出会って恋に落ちるなんて。でも憧れたんだ。ケーキだけがフォークを満たせる。自分がケーキであるかもわからないのに。だからあの日、びっくりしたけど憧れが現実になったことが嬉しかった。だから、怖がらずに青山に近づいた。だけど、青山との行為を重ねるごとに、何にも興味を示さずどこか寂しそうな青山の目が、表情が、行動が、俺を求めて必死になってる姿に、本気で惹かれていったんだ……。気持ち悪い、よな。ごめん。でも俺、青山のことが好き……」

突然の告白に、僕は心の底から驚いた。

(千川が、僕のことを好き……?)

一気に体が熱くなる。心臓がドクドクして、音が遠くなる。

その瞬間、一気に自分の気持ちの正体がはっきりした。

千川のことずっと目で追ったり、気にしないふりしたり、他の奴と話してるとこ見るとモヤモヤしたりしたのは、千川が好きだからだ。

(僕、千川が好きなんだ)

さらに鼓動は強くなり、体ごと脈打っているのかと錯覚する。

自覚してしまえばそこから気持ちは深くなる一方で、心臓が痛い。

体は正直に千川を求めはじめ、特別近くで嗅がないとしなかったはずの甘い香りが、鼻腔を刺激する。呼吸が浅くなり、唾液が溢れる感覚がした。

千川は青山の反応を待ったが、しばらくして繋いでいた手をもう一度をぎゅっと握り「最後に、本当のことを伝えたかっただけだから。もう近づかない。青山を困らせない。……ありがとう」そう言って立ち上がった。

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