第2話
(思ったより長居してしまったな)
そう思いながらも新しい小説を借りられたことにテンションが上がる。
下駄箱まであと数歩というところで、「青山?」と呼び止められた。
声の主は、クラスメイトの千川だ。
そんなに親しいわけではないが、あまりクラスメイトと関わろうとしない僕に時々声をかけてくる。返事はせずに視線だけ千川に向ける。
「青山今帰りなの?もしかしてまた本読んでた?あ、俺は部活中に足捻っちゃて、保健室に氷もらいに行くんだ」
よく喋る奴だな、と思いながらも確かに片足を庇って歩く姿は痛そうだ。そう思いながら千川の足を横目に、軽く会釈して帰ろうとすると「痛っ!!!」という声とともに転びそうになる千川。僕は思わず手を伸ばした。
バスケ部に所属しているらしい千川の鍛えられた体を、必要最低限の栄養素でろくに運動もしていない僕が受け止められるわけがなかった。
体が床に打ち付けられた痛みと、鈍い音が廊下に響く。その瞬間、嗅いだことのない甘い香りが鼻腔を襲った。
「青山ごめん!大丈夫か?!俺めっちゃ汗やばいのに……汚しちゃったよね。一緒に保健室行こう」そういって保健室までの道のりを慎重に歩き出す千川。さっき千川に触れた手が震える。やめろ、僕の理性が叫んでる。しかし本能を前にそんなものは虚しく、千川の汗で濡れた手を、バレないように舐めた。と同時にどくどく脈打つ心臓に、浅くなる呼吸。怪我をしている千川のことを支えることもできず、後をついていくことしか出来なかった。
「えー!先生いねえじゃん!」と言いながら棚をいろいろ物色する千川。
その様子を僕は拳を握りしめながら、部屋の隅で見つめている。
(甘かった、少し舐めただけなのに。千川はケーキなのか?確かめたい、もう一度舐めたい)僕の脳内は千川の甘さで、口内は溢れ出る唾液でいっぱいだった。「おーい青山!怒ってる?ごめんって~。そんなとこ突っ立てないでこっちで手洗って、タオルもあるよ。俺も湿布貼ったら部活戻る……し?」僕はジリジリと千川に近づき、椅子に座りながら湿布を貼ろうとするその手を取る。
あんなことで怒るほど僕の心は狭くない。だけど「悪いと思ってるなら、ちょっと付き合って」これは好都合かもしれない。そう思って、千川の首を流れる汗をなめとった。
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