第49話 関所③

「あっ…がぁ!」

「なぁジュリア〜、死んじまうぞー?」


次の日は朝から蹴り起こされ、再び拷問が始まる。

今回は無理やり立たされて棒に縛り付けられているが…悪趣味な部屋だ。関所とは何をするところなのかよく考えて欲しい。


スミスは依然として、アリスの行方しか聞いてこない。本当に麻薬のことはどうでもいい、ただの私を捕まえるきっかけ程度にしか思っていないのだろう。


どこから持ってきたのか、皮のムチをビシビシと地面に叩きつけながら、スミスは何度も私に問う。


「なぁ、庇っても仕方ないだろ?お前だってあの貴族の奴らに恨みが出来たから、暴動に参加した。違うか?」

「…違わない。ただ、その女の子は関係ないってだけだ」

「…わかんねぇなぁ。あのクソ野郎共の関係者だぞ?俺達の平穏な暮らしを奪った、とんでもない悪党だ。あの血筋を滅ぼさないと、村で死んでいった奴らが不憫で浮かばれねぇよ俺は…」

「何が平穏な暮らしだ…あんな顔をして人を殺すような奴が、平穏な暮らしなんて語るな」


口の中に溢れた血を、スミスの顔に吐きかける。スミスはニコニコ笑っていたが、突然無表情になり、ムチを大きく振って私の右腕を叩く。


「ぐぅ…っ!」

「俺は復讐がしたいだけなんだよ。正義のある殺し!こんなに甘美で病みつきになることが他にあるか?」

「…ははっ、本性が見えた。結局お前は殺しに病みつきになってるだけだろ」


次は左腕。ムチで打たれた所が赤く腫れ上がり、所々皮膚が裂けて血が垂れている。

足にも腕にも、数え切れないほどムチを打たれた。身体中傷まみれで、とてもじゃないがアリスに見せれたものじゃないな…と考えると、笑いが込み上げる。


私のその姿に苛立ちを覚えたスミスは、再び木の板に持ち替えて私の腹を思いっきり殴る。


「がはっ…その板…気に入ってんじゃ、ないか」

「手にフィットするんだよなぁ、お前の血が乾いて滑らないし、使いやすくて感謝してるぜ?」


…何がそこまで、こいつを駆り立てるのか。

本当にただただ、殺しという薬物に取りつかれた魔物だ。

こんな奴に何を言ったところで、体力の無駄にしかならないだろうが…今私に出来るのは、黙って責め苦に耐える事と、喋って少しでも時間を稼ぐこと


「げほっ、げほっ…あの子を殺して、どうする?リーデルに亡命でもするのか?」

「いやぁ?フランシスカでお前についての情報を聞いた時点で、あの村での1件は全部お前のせいって決めたんだ」

「首謀者のジュリアを確保したが、拷問の末に死亡したってことにすりゃあ全部丸く収まるだろ?」

「げほっ…ああ、心の底からくだらないね」


口から血液が垂れる。クソ、血液だって無限じゃないんだから…出血を少しは抑えて欲しいものだ。こちとら断食2日目なのに…


「さて、無駄話を経て、話す気になったか?」

「いや…知らないものは話しようがない」


私の言葉を聞いて、大声で笑いながら私の腹に蹴りを入れる。思いっきりみぞおちに入り、再び胃液が零れだす。


「強情すぎるって…お前にとってあの女が何になるんだよ」

「…お前が、嫌いなだけだよ。村にいた頃からな」

「そうか?俺は村の皆を愛してたぜ?まるで家族みたいにな」


その言葉に乾いた笑いが漏れ出す。どの口が抜かすんだか…


「なら家族の女をボコボコ殴ってんじゃないよ。何が楽しいんだか」

「楽しくなんかないさ。心苦しいよ」


スミスの顔は笑っている。顔と言葉がくっついてない辺り、いよいよ狂っているようだ。


スミスは机に置いていたナイフを手に取って、私の顔に当てる。


「とは言っても…俺としてはもう1人殺せるってのはありがたいことだ。村の復讐っていう大義名分も出来るしなぁ」

「…」


スミスから殺気は感じない。殺すつもりは無いのか…もしくは、もはや殺気を出さない程に殺しに慣れたか。


「まぁよく考えることだな。明日までに吐かなければ…お前を殺す。あの女は大方まだファーレス領にはいるだろうし…また探すさ」

「じゃあなジュリア。良い夜を」

「黙れ…狂人が」


しかしその言葉に気が抜けたのか、再び意識が遠のく。

こりゃあ…いよいよもってヤバいかも知れない。


──

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