第46話 旅の一幕

「やっと抜けたー…」

「お疲れ様、アンナ。それに馬さんたちも」


雪道をぬけて、やっと見慣れた平原へと辿り着いた。

ここはおそらく、ファーレス領の最西端。

モンタニカを出てから1日も立たないうちに大きな湖に辿り着いた。

湖で水の補給やらを済ませて、そのまま川を下って南へ。

所々凍っている川の景色に2人ではしゃぎながらも2日程度進み続けて、平原へとたどり着いたのだった。


「結構下ってきただろうから…関所まで後どれくらいなんだろう」

「そうね…確か位置的には、フランシスカとサマリロの間くらいだったから、3日もあれば辿り着くんじゃないかしら」


空はすっかり暗くなり、星が綺麗にまたたいている。

とりあえず今日のうちに雪原を出ようという提案が、裏目に出なくて良かった。

馬車を止めて、適当な場所で野営の準備をする。


「アンナ、少し川に行ってみない?魚が釣れるかも」

「どうだろう…この辺りはまだ寒いからね」


そうは言いながらも、カバンの中に入れて置いた糸と針を取り出す。

モンタニカで買ったものだが、使うのは今回初めてだし、そもそも魚がいても釣れるかどうかは怪しいところだが…


馬車から少し歩いて川を見る。川沿いには木の枝が多少落ちているが、釣竿として使えそうなものは無い。

薪程度に使えるように、拾っていくとしよう。


「きゃー、つめたい!」

「アリス!危ないよ!」


木の枝を拾っていると、川からアリスのはしゃいだ声が聞こえる。

まだ雪が見えるような位置にいるのに川に入るなんて、体温を奪われるだけだ。

しかしアリスは冷たい冷たいと言いながらも、川の中に少しづつ進んでいく。


川はそれほど大きなものでも無いが、馬車で渡れるほど浅く小さくもない。

川の流れを見るに両端の岸から少しのところは浅くなっているが、真ん中はそれなりに深くなっているようだし…


「ほらアリス!早く上がって!」

「ちょっと待って…よっと!」


アリスが勢いをつけて川の中に手を突っ込む。水が跳ねて、アリスの服が濡れてゆく。

少しして手を挙げたアリスの手には…魚が握られていた。


「見てみてアンナ!捕まえたわ!」

「いや、普通にすごいけども…本当に体温が奪われて危ないから!早く上がってきて!」


結局そのあと、もう1匹の魚を手掴みで捕まえたアリスが岸へ上がってきた。

服はビショビショに濡れていて、身体が小刻みに震えている。


「えへへ、やっぱり寒かったわね」

「勘弁してよ…火を起こすから、早く戻ろう」


震えるアリスに防寒着を掛けながら、馬車のところまで戻る。

馬用の藁を少し拝借して、大急ぎで火を起こした。

さっき拾ってきた枝をどんどん放り込みながら、火の勢いを強くしていく。


「全くもう…本当に危ないんだからね?」

「えへへ、ごめんなさい。なんだか、山での生活を思い出しちゃって」


…山での生活というのは、この逃亡生活が始まった初日だか2日目だかのことだろう。

確かにあそこでは、アリスが手掴みで魚を捕まえていたが…あの時はだいぶ暖かかったし、今とは全く状況が違う。


アリスを着替えさせて防寒着を渡し、火の近くに座らせる。

ついでにアリスの服も乾くように火の近くに立てて…とりあえず一息つく。


「…それにしても、すごいな。魚だって逃げるだろうに」

「でもね、川に手を入れて少し機会を伺って、後ろからバッと掴むだけなの。案外何とかなるものよ?」


何とかなるものでは無いと思うのだが…謎の才能を発揮しているようだ。

そういえばルカが、「回復魔法は電気魔法の応用だと言われてる」って話をしていたが…いや、まさかな


「…魚、軽く料理するよ。ちょっとまっててね」

「うん、ありがとうアンナ」


カバンから料理用のナイフを取りだして、魚を捌く。お腹を切って、血を抜きながら内蔵を取りだして…

ついでに自分達用に置いておいた野菜も取り出す。玉ねぎと人参を1つずつ取り出して、素早く皮をむく。


「…慣れたもんね…すごい手捌きだわ」

「いや、まだまだだよ…アダムはもっともっと早いよ」


野菜を決まった大きさに切り終えた所で一旦それらを置いて、魚と小さな鍋を持って水を汲みに行く。魚は血を洗い流して綺麗に洗うが…本当に、水が冷たい。よくこんな中に入ろうと思ったものだ。


焚き火のところへ戻って、鍋の中に切った野菜を入れて、一緒に野菜の皮を洗っていれる。

しばらく待つとグツグツと煮え始めるので、そのまま蓋をしてしばらく置く。


その間に魚の口から串をさして、少し塩をまぶす。海の魚では無いから味は薄いかもしれないが…塩の味が強い干し肉ばかり食べていたし、たまにはいいだろう。

そんなことを考えながら、魚を焚き火の近くの地面に刺して、炙る。


「アンナー!スープが吹いてる!」

「おっとっと…」


火が強すぎたようだ。蓋の周りからグツグツと吹き出している鍋を掴んで火から少し離し、味を整えながら野菜の皮を取り除く。

皮も食べれるのだが…固くて食感が悪くなるから、贅沢にも捨ててしまおう。というか、店で出すのがそればかりだったから、半分癖のような物だ。


「よし、とりあえず出来たよ」

「わーい」


先程のスープを器に注いで、その器の上にモンタニカで買ったパンを乗せる。魚を1本抜いてスープと一緒に渡す。

スープからは湯気が登っていて、野菜の香りを強く感じる。

うん、今回も上手くできたな。


「美味しい!さすがね!」

「ありがとう。そろそろレパートリー増やさないとね…」


素材が手に入りにくいのもあって、まとめ買いをしてしまうから…何かとこのスープを作ってしまうのは考え物だ。

今のところアリスは飽きたとか言ってこないが…私は正直飽きつつある。モンタニカでも飲んだし…


「もうちょっとアダムのところで料理の作り方を学べばよかったなぁ…」

「ふふ、売り物のスープが上手く作れるんだから、それでいいじゃない?」


──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る